決戦準備! 〜昔の映画の話をしよう!〜

 ◇ ◆ ◇



 ――数時間後。



 すっかり準備の整った私たちは『ハーフリング』の村の外で戦闘配置についていた。私は村の正面でホムラちゃんと仲良く立っている。


 同じ女の子だけど、背丈はホムラちゃんの方がだいぶ高いので、並ぶと姉妹というか――親子に見える。あと、こんな痴女スタイルの女の子の隣にいたら私まで痴女だと思われそう。――って口に出すと絶対殺されるけどね。


「――緊張してるのか?」


 ホムラちゃんが珍しく神妙な面持ちで私に話しかけてきた。


「うん……ちょっとだけ」


「大丈夫、お前がミスったらオレがカバーしてやる」


 ポンポンと肩を叩いてくるホムラちゃん。その声は少しだけ震えていた。私よりももしかしてホムラちゃんの方が緊張してない? それを誤魔化すために私に話しかけてる? うわ、意外と女々しい子!



「ミスらないですから……ていうかホムラちゃん、私の事『ロリ巨乳』って呼ぶのやめたんですか?」


「――ロリ巨乳」


 これはあれですね。忘れてたやつですね!



「――なあロリ巨乳、知ってるか?」


「ここぞとばかりに連呼して……」


「ずっと昔に、黒澤明監督の『七人の侍』っていう映画があったの、知ってるか?」


 っていきなり言われてもね……。私あまり実写映画は観ないし……。でも黒澤明監督がすごい監督だっていうのは何となく知ってたし、そのタイトルにも聞き覚えがあった。


「――まあ名前くらいなら」


「んだよ、内容知らねぇのか……さすがロリ巨乳。今までなに考えて生きてたんだ? 脳みその栄養全部胸に吸われたか?」


 酷い言われようである。あと、私はリアルでは貧乳なので胸は関係ない。



「いいか、『七人の侍』っていうのは、百姓に雇われた七人の侍が村を襲う野武士と戦うって話なんだけどな――」


「へぇ……なんか今の私たちみたいですね。人数は違いますけど」


「――って思うだろ? オレもそれが気になっていた。――恐らくオマージュってやつだな。このクエストを作ったやつはその映画から着想を得て作っている。――村人と侍の身分差に焦点が当たるところもそっくりだ。奇妙な程にな」


 ホムラちゃんはゆっくりと、噛み締めるように語る。なにか思うところがあるに違いない。


「で、その映画の結末はどうなるんですか? 村は助かるんですか? 侍は無事だったんですか?」


「あまりネタバレはしたくないんだがな――有名な映画だし少しくらいはいいだろ。知らないお前が悪いってことで」


「なんですかそれ!」


「えっとな。結論から言うと村は守られた。――けど、七人の侍のうちは死んで、村人も大勢死んだ。――それだけじゃなくて……いや、ここからはやめておくか。今はまだ」


「……」


「まあ何事も犠牲はつきものっていうけどな――」


 前を見据えたまま数歩前に進み出るホムラちゃん。そのせいでホムラちゃんの顔はよく見えなくて、どんな表情をしているのかは分からない。私に見られたくないのかもしれない。




「――願わくばそれがお前じゃないことを祈る」




「……ホムラちゃん? 大丈夫ですよ死んでもまた復活できます。ゲームなんですから!」


 ポツリと「だといいんだけどな」と意味深に呟くホムラちゃん。

 どうして……どうしてホムラちゃんは私のことをこんなにも考えてくれるのだろうか。文句を言いながらもなんだかんだそばにいてくれるのは何故だろう?


「すまん変なこと言って。ただお前を見てるとなんつーか、放っておけないんだよな。――妹によく似ててさ」


「ホムラちゃんの妹さんっていったいどんな子ですか!? 私みたいに尖った子ってそうそういないと思いますけど!」


「変人だっていう自覚はあるのな!」


「そりゃそうですよ! あと、私に言わせればホムラちゃんも変人です!」


 ムキになった私が言い返すと、ホムラちゃんはフンッと鼻を鳴らした。多分照れ隠しだ。


「ステータス極振りするやつなんて大概変人だよ。――魔導族なんていう変な種族を選ぶやつもな!」


「開き直った!」


 ホムラちゃんの理論で言うと、私のギルドはほとんど変人ということになってしまう。極振りしてないリーナちゃんだけがまとも……いや、彼女は別の意味で変人なのでみんな変人だ。


 私はホムラちゃんに歩み寄ってその手を握ってみる。ミルクちゃんとレーヴくんは私に何かを思い出して欲しいみたいなことを言っていた。この、なんかエモい雰囲気でホムラちゃんの手を握ってみたらなにか思い出すんじゃないか。そう思った。


 手袋越しに感じる彼女の手は温かかった。



 ふと、何となく目を閉じた私のまぶたに、ある光景が浮かび上がる。



 ――海辺



 ――白いワンピース



 ――麦わら帽子



 ――ピンクのビーチサンダル



 ――ザーッザーッという波の音



 私は誰かに手を引かれて歩いている。大きくて、頼りになる――温かい手。


『ったく、目を離すとすぐに迷子になるんだから〓〓は……』


『ごめんなさい。――お兄ちゃん』


 そっか……これは多分私がうんと小さい頃の記憶。



「お兄ちゃん――」


 そうだ。私にはお兄ちゃんがいた。頼りになって誰よりも私のことを考えてくれる大事なお兄ちゃんが! あれ、でもお兄ちゃんは昨日私と事故にあって……どうなったんだっけ……? そのあとの記憶がない。思い出そうとしても、頭の中に靄(もや)がかかっているような感じで上手く記憶が――


「おい、大丈夫か?」


 ホムラちゃんの心配そうな声がして、私は飛びかけていた意識を手繰り寄せた。

 せっかく何かを掴みかけてたのに……。でも一つ、確証に近いものを私は得ていた。


「あっ、ごめんなさい! ぼーっとしちゃって」


「ったく、肝心な時にぼーっとしてんじゃねぇよ」



「そうそう。で、おに――ホムラちゃんはその『七人の侍』っていう映画をどこで知ったんですか?」



「――ん? あぁ」


 ホムラちゃんはそういえばどうだったっけ? みたいな感じで考える素振りを見せた。



「そういや、好きだったんだよなー。――親父が」

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