━━━━
私はだれ?
◇ ◆ ◇
――翌日。
もふもふもふもふ。
私は膝の上で飼い犬のペコの尻尾をもふもふしながら癒されていた。
今日は祝日なので、久しぶりに家族でお出かけすることになった。今までは、家族みんなが不眠症に苦しんでいて、休日は起きる時間もまちまちだったのであまり家族全員で出かけるなんてことは無かったけれど、驚いたことにみんな『トロイメギア』を使いはじめてから生活のリズムが改善し、ちゃんと朝起きて、夜にはしっかりと寝れるようになっていた。
私も、レイプされた時を除いて中途覚醒もなく、翌日に疲れを残さない睡眠ができていた。素晴らしい進歩! やはり快眠って素晴らしい! ビバ! 快眠生活!
で、私たち家族は、お父さんの運転する車に乗って出かけたのだが……。
「――どこに行くつもりなの?」
私は運転席のお父さんに声をかけた。四人乗りの小さな車は、運転席にお父さん、助手席にお母さん、お父さんの後ろに私、その隣にお兄ちゃんが座っている。私の車椅子を詰め込んで、飼い犬のチワワのペコが乗っていると、わりとぎゅうぎゅうで狭い。
「特に決めてないが……経験値効率の良いクエストにでも――」
「あなた、すっかりゲーム脳になってるわね」
呑気に答えたお父さんに、お母さんが苦言を呈した。
「そういうおふくろだって、家で物音がする度に身構えるだろ。人のこと言えねえじゃん」
「なんですって!? あんただって自分の部屋で『戦闘訓練』とかいって暴れてるじゃない! いちいちうるさいのよ!」
「いちいちうるせぇのはおふくろの方だろ! アホ!」
「ばーかばーか!」
とまあこんな感じで、お母さんとお兄ちゃんは仲があまり良くない。ただ、本人たちに言わせると単にじゃれているだけで本気で喧嘩をしている訳ではないらしい。が、いつも止めに入る私やお父さんにはかなりストレスが溜まって――
「あーもうほら、二人とも落ち着いて!」
「久しぶりにどこか外食にでも出かけるか。皆食べたいものはあるか?」
話の流れを変えようとしたお父さんに、私たち三人は一斉に答えた。
「お寿司!」
「焼肉!」
「イタリアン!」
「ワンッ!」
ペコまで自己主張しなくていいの!
すると、またお母さんとお兄ちゃんが睨み合う。
「なんでイタリアンなんだよ? イタリアンで何食うつもりだよ?」
「あんたこそなによ焼肉って、肉食ってなにが嬉しいの? もう少し健康考えなさい! ばーかばーか!」
「は? うっせえよクソが!」
罵りあう二人。私の中でその姿が別のものと重なる。でも、なんだろう? なんだろうこれ?
――あれ?
――現実世界(リアル)じゃないところで
――私は家族と会ったことあったっけ?
――夢? ――それとも
――ゲーム?
――ここは――どこなの?
あれ?
そう思った次の瞬間、私の体を強い衝撃が襲った。
精神的にじゃなくて物理的な。
身体が何かに押し付けられて、身体の中で何かがぐしゃっと潰れるような感覚があった。痛い。すごく痛い。でも目も見えないしよく分からない。何が起こったのか……それすら。
なんかブレーキだかクラクションだかわからない音がする。
その音はだんだんフェードアウトしていき、私の視界は白い光に包まれてしまった。
もしかしたら、私はだんだん現実と夢とゲームの違いが分からなくなってきているのかもしれない。
なにせ、今までに何回もその狭間を行き来してきたのだから。私は今〝起きて〟いるのか〝寝て〟いるのか。それすらもわからないよ……。
――そう、これはゲーム。現実じゃない。
でも本当に? この痛みは、嘘なのだろうか?
――これは何?
――この記憶は
――いつなの?
――私は
――だれ?
◇ ◆ ◇
――【トロイメギア】セーフモードで起動中
――『Now Loading』
――『トロイメア・オンライン』
『Welcome!! 「ココア」さん』
そうか、私は「ココア」。
そうだ。
だって目の前に書いてあるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます