♡変態ニンジャとエリアボス討伐♡
望まぬ救世主! 〜私、縛られるの巻!〜
◇ ◆ ◇
――『トロイメア・オンライン』
懐かしいなこれ。最近はお知らせがなかったのか知らないけど、タイトルロゴを見ずにそのままゲームにログインしていた。そろそろレーヴくんが恋しくなってきたんだよ、よかったーもふもふしよっと!
タイトルロゴを追い払い、真っ白な空間に降り立った私。目を凝らすと、向こうの方から黒猫が歩いてくる。――レーヴくんだ。
「レーヴくんやっほー!」
私がレーヴくんに抱きつきに行くと、彼は私の腕から逃れるようにステップを踏んでかわし、私の背後で人間の姿に変身した。
「毎度毎度気安くボクのこと触ろうとして! このド変態お姉ちゃん!」
開口一番酷い言われようだ。
「だってレーヴくん可愛いんだもん!」
「可愛いっていうなー!」
顔を真っ赤にして怒るレーヴくんも可愛い。お持ち帰りしたい。一家に一人レーヴくん! って前も言ったかこれは。
とはいえ、ここで引き下がるわけにはいかないので、手をわきわきさせながら腰をかがめて飛びかかる隙を伺う。
「な、なんだよ……やるのか? ボクを怒らせたら怖いよ?」
「知るかぁぁぁっ!! てぇぇぇいっ!!」
私は我慢できなくなって、レーヴくんに飛びかかった。でも、レーヴくんは落ち着いた様子で手に持ったステッキを振る。
――パシッ
「うぁっ!!」
バランスを崩して私は真っ白な地面に倒れた。私の両手首と両足首はそれぞれ縄のようなもので結ばれていて、動かせなくなっていた。ただ地面に横たわるしかない。……これ、レーヴくんがやったの……?
「ド変態はド変態らしく地面を這いずってるといいよ」
「うわぁぁぁぁぁんっ!! レーヴくんの意地悪ぅぅぅぅっ!! お姉ちゃんを縛るなんてぇぇぇぇぇっ!! えっちぃぃぃぃっ!!」
「うるさっ! 少しは大人しくできないの!?」
私が騒ぐからレーヴくんはすっかり呆れ返ってしまった。でも、だって可愛いんだもん。もふもふしたいよ……もふもふさせてよぉぉぉぉっ!!
まあ暴れてもどうにかなる訳でもないので……私は渋々抵抗をやめた。
「で、レーヴくんは私に何を伝えに来たの? もしかして、お姉ちゃんのこと好きに――」
「――なってなぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっっ!!!!」
ですよねぇぇぇぇぇぇっ!!
「えっとね、昨日ソラのパーティがエリアボスの部屋を見つけて……エリアボス討伐クエストが解放されましたー! パチパチ!」
「エリアボス?」
「うん、『トロイメア・オンライン』の世界はいくつものエリアで分けられていて、エリアボスを倒すことでそのパーティは次のエリアに進むことができる。エリアごとに街がひとつあるから、要するに次の街に行くにはエリアボスを倒すしかないんだよ」
「なるほどぉ……」
新しいエリアかぁ……これは早めに乗り込んで穴場ダンジョンとかエクストラジョブが手に入るエクストラクエストとか、そういうのを探したいな! エリアボスってやっぱり強いのかな?
「エリアボスの部屋は『迷いの森』の最深部。討伐推奨レベルは50だから、ド変態お姉ちゃんには無理だろうなーどうせ!」
「はぁ!? ちょっとレーヴくん! 私を誰だと思ってんの?」
「ド変態お姉ちゃん」
「ちがーう! 巷では『大量破壊兵器』のココアって呼ばれてんのよ! エリアボスだかエロアボスだかエアロビクスだか知らないけど、ボッコボコにしてやるから!」
本当はそんな名前では呼ばれてないけど、昨日のセレナちゃんの言い草からすると、呼ばれるのは時間の問題かもしれない。
「へーぇ、縛られて横たわっている状態で言われても笑っちゃうだけだけど、まあせいぜい頑張ってねー」
まるで私がボスを倒せないことを確信しているかのような……何よその言い草は!? もー怒った! 知り合いを掻き集めて攻略してやるもん! ぷんぷん!
「レーヴくんはやく! はやく街に転送しなさーい!」
「しょうがないなぁ……それじゃあ、
レーヴくんが再びステッキを振ると――私の視界は暗闇に包まれた。
◇ ◆ ◇
目を開けるとそこはいつもの噴水広――
――って
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!? な、なんでまだ縛られてるの私!?」
私の両手首、両足首は相変わらずそれぞれロープのようなものでキツく縛られている。立っている状態で転送されたので、ミノムシみたいな状態にはならずに済んだけれど、これではまともに歩けないしウィンドウも操作できないよ!
「うーーーーんっ!! んーーーーっ!! 抜けなぁぁぁぁぁいっ!! クソォォォおおおおおおおおォォおおォォおレーヴくんんんんんっっ!!!! 次会ったらめちゃくちゃモフってやるんだからぁぁぁぁぁっ!!!!」
周囲の、好奇の視線に晒されながら(本当にドMに目覚めそう)悪戦苦闘するとこ数分、私の目の前に救世主が現れた。
「やぁやぁやぁココアちゃぁぁぁん。お困りですかぁ?」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!? なんで、よりによってこんな時に現れるのがリーナちゃんなんですかねぇぇぇぇぇぇっっ!?!?
私の前に現れたニンジャ装束姿のリーナちゃんは、ニコニコ笑いながら動けない私の全身を舐め回すように眺める。
「……た、助けてリーナちゃん」
「うーん、助けてあげてもいいけど、そのかわり――」
そのかわり!? そのかわり何するの!? 足の匂い嗅ぐ!?
「そのかわり……何?」
私が恐る恐る尋ねると、スッと私の手首のロープが外れた。――続けて足首のロープも。
振り返ると、そこには腰に手を当てて私を睨みつけるメイド服の美少女が立っていた。
「ご主人様、そげんところで一体なにやっとーと!?」
「い、いや、ミルクちゃん。違うのこれは……」
すると、背後から私の肩にサッと手が回された。リーナちゃんだ。
「ふふふっ、ざーんねん! これからココアちゃんと
……。
…………。
………………。
――な
なんてこと言ってるんですかこの人はぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!
「――ごーしゅーじーんーさーまー?」
「な、なーにーかーなー?」
ミルクちゃんは無表情で木の棒を振り上げる。っていうかその棒どこから出てきたの!?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
――私はしばらく棒を振り上げる鬼嫁に追いかけ回された
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