修行開始! 〜変態スキルも使いようだね!〜
「いいですか? 【ディストラクション】で雑魚モンスターを大量に倒したとします」
「――うんうん」
「スキル【殺戮者】が発動してHPが回復します。大量に倒したので、全快します」
「うんうん、全快しますね」
何をやっているんだろう私たちは。
私は今、セレナちゃんの『講義』を聞いている。彼女によると、私の種族スキルがどれだけ凄いものか、それを説明してるようなんだけど……。
「そして、【魔力精製】でMPが回復します。全快しますね?」
「しますねー」
私が答えると、セレナちゃんは、はぁぁとため息をついた。まだ気づかないのかーって、そう言いたげ。ごめんね、私物わかり悪くて……
「次に唱える【ディストラクション】の詠唱時間も短縮されます。大量に倒したので0秒です」
「0秒……」
「つまり、【ディストラクション】が連射できる。周りにある程度の数の敵がいる限り何度でもね……ほんと恐ろしいスキルだよ……」
口を挟んできたのは、近くの木にもたれかかって短剣の手入れをしているリーナちゃん。
時間が経ったら勝手に目覚めたリーナちゃん、【変化】のせいかしばらく全裸でぼーっとしてたせいで【完全脱衣】を習得してしまったユキノちゃん、麻痺させられた上投げられて完全にご機嫌ナナメなミルクちゃんの三人も、セレナちゃんの話を興味津々で聞いていた。
リーナちゃんはもう変なことをする気はないようだ。さすがにあんなモンスター状態のユキノちゃんを見ちゃったらね……。
「あげん魔法ば連射するなんて、どうかしとーばい」
うんうん、ミルクちゃんの言うとおり! 一発で昇天しそうになる【ディストラクション】を何度も連射してしまったら、きっと頭がおかしくなっちゃう……。
「しかも、自爆すればするほど【被虐体質】の効果でココアさんのステータスが上がり続けると……」
破壊されてしまった『アサシン』の装備の代わりにユメちゃん装備を身につけたユキノちゃんも感心した様子で呟く。恥ずかしいスキルなんだから真面目に【被虐体質】について論じないでほしいよ。
「――まあそういうことです。わかりましたか? 自分がどんな化け物になってしまったのか……」
「まあ、分かるような分からないような……」
でも、それだと私が無敵なのは大量の雑魚相手であって、クラウスさんが目指しているようなレイドボス討伐をするためには相変わらず役立たずだ。
「とはいえ、これには慣れが必要なので、戦闘での立ち回りとか、効率の良いレベル上げの仕方とか、教えられることは教えてあげましょう」
「あ、ありがとうございます! じゃあ私はセレナちゃんの秘密をばらすのはやめ――」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!! あぁぁぁぁぁぁぁっ!! なんですか!? 私には聞こえませんが!!」
あ、ごめんなさい。人前でこれは禁句でしたね。
「あ、あの……もしよかったら私にも稽古をつけてほしいんですけど……」
と、ユキノちゃんが手を挙げながら口にすると、セレナちゃんは肩を竦めた。
「なんでですか? あなたにはソラという優秀な――優秀すぎる師匠がいるのでは?」
セレナちゃんはやっぱりソラさんに負けたことを根に持っているようだ。
「私、戦い方が特殊なので、そろそろソラさんから教わることがなくなってきたんです。それに――ココアさんのこと、なんか放っておけなくて」
ユキノちゃんんんんんんっ!! やたらと襲われる私のこと心配してくれるんだね!! やっぱり持つべきものは親友だねっ!!
でも、セレナちゃんはなおも渋っていた。
「そんな、私は近接戦闘の心得はあまり……」
「イベントの決勝戦でソラさんと近接戦闘してたじゃないですか。しかも小ぶりのナイフで。――かなり近接戦闘に慣れてるように見えましたけど」
「――マジですか、分かってしまいますか。というかユキノさん、あなた前ココアさんが襲われていた時に私に知らせてくれた『アサシン』ですね? 装備が変わっていたので気づきませんでしたけど」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!? そうなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?」
私は勢いよくユキノちゃんに詰め寄ると、その顔を覗き込んだ。ユキノちゃんは両手を胸の前で広げて慌てたような素振りを見せながら、数歩後ろに下がってしまう。
まさか、まさかユキノちゃんが例の『アサシン』の子だったなんて……確かに、普段の装備のユキノちゃんは『アサシン』にしか見えない。ずっと探していたのに……こんなにも近くにいたんだ……。
「ま、まあ……。こ、ココアさんが……されてるの見て……びっくり……というか恥ずかしくなって逃げちゃって……近くを通りかかった人に知らせたんですけど……セレナさんだとは気づかなくて……というかこれ、トラウマなのであまり……」
レイプされてた時に一瞬感じたあの風、あれはユキノちゃんが逃げていった風なのかもしれない……ユキノちゃん、本気出したらもしかして『湿布』のカインとやらよりも速いかもしれないね。私は感極まってユキノちゃんに抱きついた。
「ありがとうユキノちゃんんんんん!! お陰で助かったよぉぉぉぉっ!!」
「そ、それはよかったです……!?」
「わかりました。その勇気に免じて、私も一肌脱ぎましょう」
「あ、ついでにわたしも!」
なんと、リーナちゃんまでもが手を挙げた。ユキノちゃん、ミルクちゃんは露骨に嫌そうな表情になったけれど、本人はそんなことお構い無しだ。
「――あなたは確か準優勝の方でしたね……いいでしょう。二人も三人もあまり変わりません。アドバイスが欲しいならステータスを開示してもらわないといけませんが」
「あー、全然大丈夫だよ。わたしのステータスとスキル構築、『ニンジャ』のおすすめ構築として掲示板に乗ってるし」
「私も、イベント優勝者のステータスとして公式サイトに載せるのを許可してある気がします」
二人はセレナちゃんの前に進み出ると、「ステータス開示」と宣言して、ステータスウィンドウを開示した。ちょっと、というかだいぶ気になったので、セレナちゃんの後ろから私もそれを覗き込む。
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名前︰ユキノ
性別︰『女』
種族︰『フェアリー』
ジョブ︰『エンチャンター』
ステータス
レベル︰27
HP︰300
MP︰290
STR︰31
VIT︰43
INT︰46
RES︰59
AGI︰139
DEX︰41
RUK︰54
スキル
【属性付与+】 【俊足】 【自動反撃】 【空蝉】 【初心者の証】 【変化】
魔法
【憑依 火焔】 【憑依 氷結】 【憑依 烈風】 【憑依 砂塵】 【憑依 鉄甲】 【憑依 光輝】 【憑依 暗黒】 【瞬間加速】 【完全脱衣】
装備
武器︰夢魔の竪琴 / 聖霊の強弓
頭︰ユニコーンの角
体︰輝夜の羽衣
腕︰セイントグローブ
足︰魔獣の毛皮のブーツ
装飾品︰創造神の加護
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
名前︰リーナ
性別︰『女』
種族︰『ドラゴニュート』
ジョブ︰『ニンジャ』
ステータス
レベル︰25
HP︰350
MP︰320
STR︰51
VIT︰46
INT︰27
RES︰35
AGI︰103
DEX︰52
RUK︰28
スキル
【罠強化+】 【俊足】 【状態異常強化+】 【空蝉】 【初心者の証】 【自動反撃】 【神足通】
魔法
【罠設置 吊】 【罠設置 捕】 【罠設置 縛】 【罠設置 刺】 【罠設置 噛】 【罠設置 撒】 【罠設置 光】 【かまいたち】 【毒霧】 【影分身】 【目潰し】 【猫騙し】 【瞬間加速】
装備
武器︰ポイズンダガー / パラライズダガー
頭︰忍びの頭巾
体︰忍びの装束
腕︰忍びの手甲
足︰忍びの足袋
装飾品︰神速の御守
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うわー、えぐーっ、リーナちゃんの魔法名見ただけでエグいのが分かるよ。こんなのと戦って勝ったユキノちゃんはやっぱりすごい。
セレナちゃんはそんな二人のステータス画面を見ながら時々スキルをタップして詳細を表示したりして考え込んでいた。どうアドバイスしたものかと考えているのだろう。
やがて、セレナちゃんは口を開いた。
「実戦あるのみですね。ちょうど二人はレベルも実力も近いので、決闘(デュエル)形式でひたすらスパーリングをするといいでしょう。細かいところは試合を見ながらアドバイスします。――あと、ミルクさんでしたっけ? あなたはもう少しご主人様と連携を取れるように訓練します」
セレナちゃんの言葉に二人+一匹は大人しく頷いた。
――こうして私たちの修行は始まったのだった。
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