決勝戦! 〜ゾーンで一発逆転!?〜
――ドガガガッ!
轟音と共にリーナちゃんの身体が吹き飛んで、闘技場の壁に激突した。彼女のほぼ満タンだったHPバーは一気に削りきられる。白い光となって消え去るリーナちゃん。
今度こそ勝負あり。誰もがそう思った時――
「別に、【空蝉(うつせみ)】を習得してるのはあなただけじゃないんだよなぁ……【自動反撃(オートカウンター)】!!」
「――っ!?」
――ガンッ!!
突如、ユキノちゃんの背後に現れたリーナちゃんは、短刀を一閃! ユキノちゃんはそれをなんとか片方の篭手で防いだものの、篭手は外れて大きく後ろに飛んでいってしまった。両手の武器を失ったユキノちゃんは、【空蝉】によって状態異常はリセットされたようだけど、大ピンチ!
どうせなら私に勝ったユキノちゃんに勝ってもらいたいなぁ……そしたら、ユキノちゃんに負けた私は実質準優勝! ってことに……ならないかな。
『大逆転につぐ大逆転! もう目が離せません! いやっほーぅ! いけーっ! やっちまえーっ!』
『ユメ興奮しすぎ! ちゃんと実況しなよ!』
『こ、コホン! 失礼いたしました! リーナさん、ユキノさんを追い詰めます。さぁどうなってしまうんでしょうか!!』
ユメちゃんとレーヴくん、めちゃくちゃ楽しそうだね。ふと横を見ると、クラウスさんとキラくんのコンビ、更にはミルクちゃんまでもが一言も喋らずにじっと勝負の行く末を見守っている。
「楽しかったよ。でも少しだけ、わたしの予想を越えられなかったみたいだね」
「――越えますよ、これから」
「どうやって? もう満身創痍、武器だって無いのに」
攻撃の手を止めたリーナちゃんとユキノちゃんが言葉を交わす。リーナちゃんは余裕なのだろう。HPを見ても武器の有無を見てもリーナちゃんが有利な状態なのは私にもわかる。だけど、ユキノちゃんの目からはまだ闘志の炎は消えていなかった。
「スポーツやったことある人ならわかると思いますけど……突然自分でもびっくりするような素晴らしいプレーができることがあるんです。人とか――ボールの動きが止まって見えたりとか――そういうのを〝ゾーン体験〟って言うんですけどね」
「――さて、分からないね。何が言いたいの?」
呆れたような表情のリーナちゃん。ユキノちゃんは構わずに続ける。
「ゾーンに入るには心の余裕が必要です。揺らがず、とらわれず、流れがあり、集中とリラックスが同時に行われているような――」
えっ、なんかユキノちゃんめちゃくちゃかっこいいこと言ってるような気がするんだけど! ユキノちゃんの黒紐パンに意識が向いて上手く頭に入ってこな――
「つまり今、私にはあなたに対する〝勝ち筋〟が
ん? 何が見えてるって? パンツ?
「あっそ、じゃあわたしはその〝勝ち筋〟すら予測してみせるよ!」
――ドスッドスッ
「――っぐ!?」
ユキノちゃんが反応できない速度で投げられたのは、何枚もの手裏剣のような投擲武器、それらはユキノちゃんの太ももや腕にグサグサと突き刺さる。と同時に再びユキノちゃんのHPはジリジリと削られ始めた。また毒だ! くそぅ、汚いぞっ!
太ももの手裏剣を引き抜いたユキノちゃんは、そのまま脚を押えるようにしてうずくまってしまった。うわぁ、相当痛そうだよあれ!
「まあ、あなたのゾーンとやらもこの程度で――」
「憑依(エンチャント)、【火焔(かえん)】!」
ユキノちゃんにトドメをさそうとしたリーナちゃんを突然真っ赤な炎が包み込んだ。見ると、ユキノちゃんは右手に小さな拳銃のようなものを構えている。その銃口から勢いよく炎が吹き出していた。
『ユキノさんの反撃! 火炎放射です! これは痛い!』
「あっ、あのハンドガン……『魔導族』専用の武器じゃないか?」
「だから言ったでしょう? スキルで装備の制限を無視してるって……」
硬直から解けたクラウスさんとキラくんが言葉を交わした。ミルクちゃんがはっと息を飲む音が聞こえた。
『なるほど、ハンドガンに炎を憑依させての火炎放射……考えたねぇ』
レーヴくんは相変わらず上から目線の偉そうな解説を入れてくる。
「小賢しい! こんな子供騙しで!」
すぐさまバックステップで距離をとるリーナちゃんだったが、そのHPは既に半分ほど削られていた。つまりはこういうことかな? ユキノちゃんは傷を庇うと見せかけて奥の手のハンドガンを取り出し、近づいてきたリーナちゃんに不意打ち気味にお見舞いしたと……うーん、私にはとてもじゃないけど真似できないよ!
「――まだまだ私と踊ってもらいますよ!」
「――来なさい。思う存分踊ってあげる!」
短刀を構えて駆け出すリーナちゃん、それをハンドガンを構えて迎え撃つユキノちゃん。凄くかっこいい絵面なんだけど、ユキノちゃんの紐パンのせいで以下略……。
まあ、本人たちは必死だと思うから私はこれ以上考えないように……心を無にしないと……むむむ……。
ユキノちゃんのハンドガンの攻撃をひらりひらりとかわしていくリーナちゃん。
「二重憑依(ダブルエンチャント)、【氷結(ひょうけつ)】!」
腰にぶら下げていたハンドガンをもう一丁左手に構えて、氷の塊を撃ち出すユキノちゃん。紐パン以下略だけど、対するリーナちゃんは地面に何やら丸いものを投げつける。と、モクモクと白い煙が立ちこめて二人の姿を隠してしまった。どうなってるの? 見えないんだけど!
『煙で何も見えない! どうなってしまったんだぁ!』
「三重憑依(トリプルエンチャント)、【雷撃(らいげき)】!」
「っ!? 【心眼(しんがん)】! 【自動反撃】!」
二人の叫び声と、ピカッピカッという稲妻の光だけが戦闘が続いているということを示している。
「ユキノ、相手の足音を頼りに攻撃しているな。リーナはスキルでそれを回避しながら反撃しているが……スモークのせいでどちらも決定打が与えられないみたいだ」
「へぇ、よく分かりますね。僕にはさっぱり……」
戦況を把握しているのはクラウスさんだけ? キラくんはどうやら匙を投げたようだ。
そうこうしているうちにどんどん煙は晴れていく。
「見えました!」
とユキノちゃんの声、えっまたパンツ見えた?
「甘いっ!」
ユキノちゃんが放った氷の塊を短刀で弾いたリーナちゃんは、すっとユキノちゃんの懐に飛び込んだ。ハンドガンはわずかながらリロードの時間があるようで……それまでに勝負をつけるつもりだ。ユキノちゃんのHPは毒のせいでもうほとんど残っていなかった。
「これで――終わり! 【かまいたち】!」
「――四重憑依(クワトロエンチャント)、【砂塵(さじん)】!」
青い光をまとったリーナちゃんの短刀がユキノちゃんを捉える寸前、リーナちゃんの顔面にブワッと砂の塊が吹きつけられた。なんか私には、ユキノちゃんが口からフッと砂を吹き出したように見えたんだけど……
「うわ、目がぁぁぁぁっ!?」
突然の目潰し攻撃にリーナちゃんは悲鳴を上げる。そんなリーナちゃんの攻撃をユキノちゃんは楽々とかわして……
「【自動反撃】! 再憑依(リ・エンチャント)、【光輝(こうき)】!」
燃え盛る炎を消して、輝く光をまとった右拳がリーナちゃんの腹部を捉えた。
「ぐっ……はっ……ま、負けた……? わたしが?」
そう呟いたリーナちゃんはそのまま白い光となって――
――今度こそ消え去った。
『し、勝負あり! 勝者は……ユキノさんですっ!!』
しばらく試合に釘付けだったのか、実況を忘れていたユメちゃんが叫ぶと、ユキノちゃんがドサッと地面に倒れる。そのHPは――毒によって削られ、ごく僅かに残っているのみだった。まさに死闘だ……。
――ウォォォァァァァァァ!!
大歓声。クラウスさんも、キラくんも、そしてミルクちゃんも、勝ったユキノちゃんに賞賛の拍手を送っていた。
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