暇つぶしでクエスト! 〜大賢者のタンポポを探せ!〜

 


「スキルで他職種の装備を身につけることを可能にする……って、わざわざ貴重なチュートリアル限定スキルを潰してまで手に入れるものか? 器用貧乏になりはしないだろうか?」


「現にユキノさんはめちゃくちゃ強いじゃないですか」


 クラウスさんとキラくんの議論に熱がこもる。正直私はああいう議論に入れるほどこのゲームに詳しくないし、聞いててもあまり面白くないので、隣に立っていたミルクちゃんとアオイちゃんに声をかけた。



「ねぇねぇ、暇だし、女の子同士で仲良くクエストでもやりに行かない?」


「賛成ばい!」


 嬉々とした様子のミルクちゃん。よほどキラくんと一緒にいたくないらしい。


「アオイちゃんはどうする?」


 私がもふもふのアオイちゃんに尋ねると


「あの……念の為なんですけど……アオイはのです」



 ――え



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」


 突然私が大声を上げたので、周りの注目を浴びてしまった。私は真っ赤になりながら身振り手振りで「なんでもないです!」とアピールする。


「わ、私はてっきりアオイちゃんのこと女の子だと思ってたわ……」


「よく間違われて……アオイも困っているのです」


 いやいや、困ってるってその可愛いらしい見た目がいけないんでしょうが! でも確かに身につけているのは男の子であるレーヴくんの装備だし、男の子だと言われたら「あーそうかな」ってなるような感じもする。とにかくややこしい!


「あーもう、どっちでもいいから行くよっ!」


「は、はいっ」


 私は片手でミルクちゃん、片手でアオイちゃんを引っ張るという両手に花状態で、人でごった返す噴水広場を後にしたのだった。



 ◇ ◆ ◇



「えっと、この家のはずだけど……」


 私たち3人は石造りの街の奥の方――入り組んだ路地の先のとある家の前までやってきた。イベント期間中で客もほとんど来ないのか、暇そうにしていた装備屋のオッサンに尋ねて、街の中で簡単そうなクエストが発生する場所を教えてもらったのだ。


「大通りの薬草屋の角を曲がって三本目の路地を左に行って20メートルくらい来たら右に曲がって3軒目……だよね確か」


「うーん、そうだと思うばい」


「そうだったような気がするですよ」


 頼りないな! まあ仕方ない。この中では私が一番年長なんだから(ミルクちゃんの年齢は分からないけれど、精神年齢的に私よりも年下だろう)私がしっかりしないとね!



「よーし、じゃあこの家に入るよ!」


 オッサンによると、クエストは寝たきりのお母さんのために森の奥で薬草を採ってきて欲しいと子供に頼まれるとかいうオーソドックスなものらしい。森に現れるモンスターも大して強くないので初心者も安心してこなせるクエストなんだって。


 私は意を決して家の扉を開けた。



 ――ギィィィッ



 耳障りな音がして扉が開く。中は予想外に真っ暗で、微かにかび臭い。よく見えないな、ランプでも買ってくればよかったかなと思いながら一歩一歩恐る恐る前に進む。ミルクちゃんとアオイちゃんの二人も私の背中にしがみつくようにしてピッタリついてきた。



 ――ガタンッ



 背後で突然扉が閉まる音がして、目の前が本当に真っ暗になってしまった!


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 私たちの悲鳴がひとしきり空間に響き渡る。扉の所にかけ戻ったアオイちゃんが何やらガチャガチャと閉まった扉を開けようと格闘していたが、やがて「開かないです!」と絶望感溢れる声でコメントした。


「閉じ込められた!?」


 どうする!? ミルクちゃんに変身してもらって力ずくで脱出するか、私の【ディストラクション】で力ずくで脱出するか、アオイちゃんに魔法をかけてもらって力ずくで脱出するしかない!



「――よく来たな勇者よ」


 脱出方法を考えていた私に、突然前からそんな声がかけられた。おじいちゃんの声のようだけど、相手の姿はよく見えない。


「あのぅ……ひ、人違いではないでしょうか! 私はただのロリ巨乳ホムンクルスですし!」


「アオイはただのケットシーですにゃん!」


「うちはただの邪龍ばい!」


 咄嗟に訳の分からないことを口走る私たち。パニックは最高潮!



「勇者――選ばれし者よ。――我の与える試練を見事乗り越え、その力を示してみせよ」



 ――ピカァッ



 何かが目の前で光る。と、同時にその光に照らされて謎の人物もその全貌が明らかになった。それは、紺色のローブを目深に被った老人で、古びた木の杖を持っている。皺の刻まれた表情はよく読み取れないが、顔の下半分は真っ白い髭で覆われていた。――『賢者』ってやつなのかもしれない。

 光を放っているのは、どうやらおじいちゃんの手のひらのようだ。


 すると、私の目の前のウィンドウにこんなメッセージが浮かび上がった。



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 クエスト【追憶の試練】を受注しますか?


 はい ◀


 いいえ


【追憶の試練】

『大賢者 ルドルフ』の試練を見事乗り越え、その力を示せ。

 達成条件︰『迷いの森』に咲く『タンポポ』の採集

 達成報酬︰種族スキルの解放

 編成条件︰1パーティ4名まで

 禁止種族職業︰なし


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 こ、これがクエスト!? 要するに森でタンポポ採ってくればいいのね? そんなんどこにでも生えてるでしょ? やったね! と、私は『はい』をタップした。

 なんか、オッサンに聞かされていたクエストとはだいぶ雰囲気は違うし、お母さんも子供も出てこないけれど、クエストがどんなものかを知る上ではちょうどいいかもしれない。楽そうだし。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 クエスト【追憶の試練】を受注しました!


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「では勇者よ。――じゃ。健闘を祈る」


「あっ、ちょっと待っておじいちゃん!」



 立ち去ろうとするおじいちゃん――『大賢者 ルドルフ』とやらを私は呼び止めようとしたけれど、彼はどうやらイベントのためだけのNPCらしくて、そのまま霧のようにすーっと消えてしまった。同時に背後の扉が開いて光が差し込む。――やはりおじいちゃんはどこにもいない。


「ミルクちゃん、アオイちゃん……大変……」


 私は、扉が開いたことによって喜んでいたミルクちゃんとアオイちゃんを振り返る。


「どうしたと?」


「なんですか?」



「――『迷いの森』ってどこにあるの……?」

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