新しい仲間! 〜もふもふのジェラシー!〜

 ◇ ◆ ◇



 ユメちゃんとレーヴくんに見送られ、私が転送されたのはやはり、街の噴水広場だった。えっと、グラタンみたいな名前の街の……。


「ミルクちゃーん! いるんでしょー?」


 私は空中に呼びかけた。すると、目の前に白い光の塊が現れ、中からメイド服を着たミルクちゃんが現れる。


「おかえりなさいませ、ご主人様ぁ!」


「え、待ってそのセリフどこで覚えたの?」


 危うく萌え転がりそうになった。ミルクちゃんはまるでメイド喫茶のメイドさんのようなセリフで挨拶してきたのだ。もちろん、私はそんなセリフをミルクちゃんに仕込むほど変態ではない。


「んー? 特に誰かに教えてもろうたわけやなかばい」


「え、じゃあ自分で習得したの?」


 だとしたら天才だ。



「何かまずかこと言うた?」


「いやいや、むしろ嬉しいです! ありがとうございます!」


 ミルクちゃんと戯れるのもいいけれど、私はイベントに備えてガンガンレベル上げをしなきゃいけないので、このくらいにしておかないと!

 私は、クラウスさんにメッセージを送ることにした。イベントのためのレベル上げと、対人戦の練習、両方お願いできるのはやっぱり彼しかいない。



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 差出人︰ココア


 タイトル︰レベル上げしたいです


 本文︰イベントに向けてのレベル上げと対人戦の練習がしたいです。街の噴水広場で待ってます。


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 これでよし、と。

 返事はしばらく来ないかと思いきや、すぐに返ってきた。



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 差出人︰クラウス


 タイトル︰了解


 本文︰今行く。ちょうど俺たちのパーティに新しい仲間を勧誘できたところなんだ。


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 クラウスさん、パーティに誰か勧誘できたらしい。よかったね! 私も昨日から何人かパーティ組みませんか? と話しかけられることあったけど、みんな結局動機が不純で、半分ナンパみたいなものだったから……。


 しばらく噴水広場でミルクちゃんと待っていると、銀色の鎧に身を包んだ大柄のイケメン――クラウスさんがのそのそとやってきた。あれ、一人……?


「よお、お嬢ちゃん。昨日は付き合ってやれなくて悪かったな。突然『レイドボス』が現れてな。つい参戦しちまった」


「いやいや、いいんですよ。――よかったらその『レイドボス』についても詳しく教えてほしいです」


「おう、任せろ。そうだな、ここだとなんだから、また例のカフェに移動するか」


「はい!」



 と、話しながら私たちはカフェに向かって歩き始める。すると、私はクラウスさんの背後に、小さな人影が隠れていることに気づいた。大柄なクラウスさんの陰に隠れていたので私もミルクちゃんも全く気づかなかったようだ。


「クラウスさん、その子は?」


「ひいっ!?」


 私に気づかれたことがよっぽどショックだったのか、その子が怯えたような声を出す。そんな、私怯えられるような見た目してるかな……? 私も少しショックだよ。


「ん? あぁ。紹介しよう。――この子はアオイといって、今日から始めた初心者らしい。俺がいろいろ教えてやってるんだ。パーティにも入ってくれるって」


 ほーん、なるほど、初心者を捕まえましたか。でもほんとに役に立つのかな? この子クラウスさんの背後に隠れてばかりで私もいまだに見た目がよく分からないんだけど?


「よろしくね、アオイちゃん? 私はココアっていうの。よかったらお顔見せてくれる?」


 私が精一杯優しく話しかけると、クラウスさんが「ほら、自己紹介しろ」と言いながらアオイちゃんの背中を押して私の前に押し出してくる。そこでやっと私はアオイちゃんの姿をしっかりと確認することができた。




 私よりも一回りくらい小さい背丈、茶色いショートの髪の毛、青い目、頭には髪色と同じく茶色の猫耳と、尻にはしっぽを生やしている。服装は初心者装備の『ぬののふく』だけれど、その見た目はまるで「茶色くてとても気弱なレーヴくん」と例えるのが良い。――端的に言うと、めちゃくちゃ可愛い!

 見た目が幼いから男女は不詳だけれど、可愛いならよし!


「あ、あの……アオイっていいます。種族は『ケットシー』で……職業は『プリースト』……です。よろ……しく」


 それだけ言うと、アオイちゃんは再びクラウスさんの背後に隠れてしまった。


「あーん! なんて可愛いの! もふもふ! もふもふさせて!」


「おいおい、アオイが怖がってるだろ」


 アオイちゃんをモフろうとしたらクラウスさんに止められた。完全に保護者ヅラだ。


「誰だか知らんばってん、ご主人様はうちばモフってればよかっちゃん! 浮気は良うなかばい!」


 さらには嫉妬の化身と化したミルクちゃんに腕を引っ張られ、私はやっとアオイちゃんを追い回すのをやめたのでした。くー、残念。



 そうこうしているうちに私たちはカフェに到着した。

 早速窓際の四人がけのボックス席に陣取る。

 アオイちゃんの隣にクラウスさん、私の隣にはミルクちゃんが座ってしっかりと睨みをきかせている。モフる隙がない。辛い。


 私は特大パフェ、クラウスさんはパンケーキ、アオイちゃんはオレンジジュース、ミルクちゃんは水をオーダーする。が、そこで私は大変なことに気づいてしまった。


「私、お金奪われちゃって持ってないよ!」


「仕方ねぇな。この前助けてくれた借りがあるから今日のところは俺が皆の分奢ってやるわ」


「ありがとうございますクラウス先生!」


「調子のいいやつだなお嬢ちゃんは……」


 呆れ顔のクラウスさんだったけど、やがてアオイちゃんをパーティに誘った理由について話し始めた。



「そうそう、このアオイもなかなかぶっ飛んだやつでな」


「ふーん、まさかアオイちゃんもステータス極振りの不遇職とかですか?」


「そのとおり」


 マジですか。皆こういうの好きだよね。……人のことは全く言えないけれど!


「……で、アオイちゃんは何に極振りしてるんですか?」


 クラウスさんは私の問いかけに、じっくりとためを作ってから答える。




「聞いて驚くなよ?



 ――だよ」

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