第226話 国王陛下への報告①
お母様の告白によって、お母様が賢者グエンリール様の子孫だったということが判明した。
お母様は、今まで隠し続けてきたことへの罪悪感なのか、お父様の服の裾を握った手が震えていた。
「ヘンリー。今でも私は、あなたと離れたくはないのです。……どうしたら、良いのでしょうか。あの塔の遺産がという話になれば、きっと『誰の血で』と問われることでしょう。そうすれば……!」
お父様を見つめるお母様の瞳から、一筋涙がこぼれ落ちた。
「ロゼ……。私たちには既に立派な子供達がいる。それを今更私たちの結婚を無かったことにしようとなど、流石に思われないだろう」
お父様が、お母様の手の上に自分の手を添えて、優しくさすっていた。
「お父様」
そこに、私が口を挟む。
「どうしたんだい、デイジー」
「はい。その、赤竜のウーウェンが、私を主人にしたいと、ついてきたいと言っているのです。その、もう一人は、嫌だと……」
「赤竜が、デイジーに……」
お父様が、また頭を抱えた。
「陛下へのご報告案件か。……さすがに、赤竜を勝手に王都で飼うことは許されないだろう」
「そう、思います……」
三人の間に沈黙が漂った。
「あの子、ウーウェンがデイジーを選んだのが、なんだかわかるような気がするんです」
その沈黙を破ったのはお母様だった。
「どういうことだい、ロゼ」
「グエンリール様は、賢者の職業を与えられていました。けれど、彼は早々に賢者の学びを終えてしまうと、今度は錬金術に興味を持ち、その研究に没頭したのです。……そのために隠遁したのがあの塔で、それを支えていたのがウーウェンという子だと、私の母から聞いています」
お父様は苦笑いをする。
「まるで小さい時のデイジーの真逆を行くような方だね。……そして、彼の願いが叶ってデイジーが生まれたような気がしてきたよ」
私が錬金術師の職をいただいた、五歳の洗礼式のことを思い出しているのだろうか。お父様の瞳は懐かしさとともに、今置かれている状況に対する困惑で複雑に揺れ動いていた。
「……私が錬金術師の職をいただいたのは、必然だったのかもしれないのですね」
私は、ぽつりと呟いた。
「私はあの塔で、グエンリール様が残した錬金術に関するとても大切そうな本や、素材を見つけました。それは、血を継ぐ私が見つけるために、そこにあったのかもしれません」
あの五歳のとき、私は、「家族と同じ魔導師になれない」と泣いて部屋に篭った。けれどそこは、家族と違ったのではなくて、ちゃんと家族……お母様の血を継いでいたからこそ錬金術師の職業が与えられたのかもしれない。
「「デイジー……」」
お父様と、お母様が、私のことを気遣わし気に名前を呼んだ。
「……! 大丈夫です! ただ、私が錬金術師の職業を与えられたのにも、理由があったんだなあって、少し、昔が懐かしくなっただけで……」
私は、お父様とお母様に心配をかけないように、笑顔を作った。
「……デイジー。あなたは、錬金術師になったことを、後悔している? まだ……魔術師に……」
「いいえ! 私は、錬金術師が天職だと思っています。錬金術師だからこそ、王都の沢山の仲間たちに出会えたんです。それを否定する気持ちは一切ありません!」
お母様が、ほうっとため息をつく。
「じゃあ、お父さんは、陛下に報告する手筈を整えよう。そして、デイジーとロゼのためにも、最善の結果になるよう、頑張ろう。……それが、私が家族のためにできることだね」
お父様が、決意を定めた眼差しで、私とお母様と交互に視線を交えた。
三人で話し合った内容は、お兄様とお姉様にも伝えられた。リリーは、血縁上の関係がないことと、そもそも幼すぎるということで、先々伝えようということになった。
そうして、国王陛下との面会が行われることになったのだった。
◆
王都の王城。
その応接間で、私とお父様、お母様が、国王陛下と宰相閣下と面会していた。
最初は、極限られた人数でとお父様が調整なさったのだ。
「デイジーが、旅の仲間とともに賢者の塔を踏破したんだったな」
「はい。その件で、色々ご相談すべきことがあって参りました」
陛下の切り出しに、お父様が回答した。
「賢者の塔といえば、古の大賢者グエンリールが隠遁したとも言われる塔。して、それは真実だったのか?」
宰相閣下が尋ねてこられた。
「はい。確かにグエンリール様の死後も管理人を務めていたものが、そう証言しました」
その問いには、当人である私が答えた。
「……死後の管理人? グエンリールは二百年とも三百年とも言われるほど昔の人物。その長い時間を誰が管理していたというのだ?」
陛下が首を捻った。その眉間には「理解ができない」といった様子で皺が寄っている。
「赤竜です」
「「竜⁉︎」」
「はい。あの塔は、グエンリール様の死後も、彼が育てた赤竜がずっと管理していました。彼女は人化もできますし、会話も可能です。……その彼女は、私のことを『グエンリール様の子孫だ』と言ったのです」
私の証言に、陛下と宰相閣下がこれでもかというほど刮目した。
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