第210話 ホーエンハイム家からの招待

「錬金術師や、そうなる予定の子供を一緒に連れてきてもいいですよ。身分も問わないから、気軽にみんなでおいでなさい」

 ホーエンハイム子爵が、私をお宅へ招いてくださったときに、そう私におっしゃってくださった。

 しかも、お孫さん達とも一緒に住んでいるそうで、子供の扱いに慣れた侍女さん達が多いそうだ。訪問の気遣いのために、わざわざ付き添いをつける必要もないよ、と、言ってくださる。


 ……確かに、錬金術で有名な名家にお邪魔できるって、貴重な体験よね。


 だとすると、お言葉に甘えて、身内の錬金術師やその卵達は一緒に訪問させていただきたい。

 とすると、マーカスを筆頭に、アトリエに住み込みして勉強中のルックと、実家のリリーを連れていくのが良いかしら?

 それと、実家にお手紙を出してくださるって言っていたから、実家にもそのことの説明と報告が必要そうだわ。

 なので、私は、久しぶりに実家に帰ることにした。


 私は、フェンリル姿のリーフをお供に実家を訪ねた。

 すると、いつものようにセバスチャンが玄関で待っていてくれる。

「ただいま、セバスチャン」

「お帰りなさい、デイジーお嬢様」

 変わらないこの感じが嬉しい。


 帰ることを事前に伝えていたからか、居間にまだ勤務中であろうお父様を除いて家族全員が揃っていた。

「お帰りなさい、デイジー」

 お母様が座っていたソファから立ち上がり私のもとへやってきて、頬にキスをくれる。

「「おかえり、デイジー」」

 そして、同じようにやってきた、お兄様、お姉様も、私の左右の頬違う方に、交互にキスをくれた。

「デイジーお姉様、お帰りなさい」

 最後に小さなリリーが急いで歩いてきて、私の腰に抱きついた。


「お茶でも淹れさせましょう。さあさあ、みんな立っていないでソファに移動しましょう」

 そう言ったお母様の言葉に従って、みんなでソファに腰を下ろす。

 その横で、お母様が侍女のエリーにお茶とお菓子を用意するようにと指示していた。


「デイジー、アトリエの方はどうだい?」

 お兄様が、エリーが用意してくれた紅茶を一口飲んでから、尋ねてきた。

「うん、アトリエの経営は順調よ」

「それなら良かった」

 そう言って、笑顔を見せるお兄様の横から、今度はお姉様が尋ねてくる。

「教科書作りの方はどうなったの? 陛下からのご依頼と聞くし、そっちも気になるわ」


 国王陛下が来春開校なさる、『国民学校』に錬金術科も設けることになって、その教科書を原案を手がけることになったことは、決まった時にすぐに実家に伝えておいた。

 そして生徒としてリリーも通わせるか、我が家でも検討中なのだ。


「そうそう。錬金術科の先生は、宮廷錬金術師のホーエンハイム子爵が着かれるらしいの! 宮廷の方はお年の関係で職を辞めるらしくて。 でね、先日原案を見ていただいたのよ!」

 すると、お母様が『ホーエンハイム』の家名に興味を持ったように、目を見開く。


「まあ! 錬金術師が今でこそ不人気とはいえ、ホーエンハイム家といえば、あのパラケルスス様を輩出した錬金術の名門じゃない! そのご当主自らが教鞭をとられるなんて!」

 まぁ! と感動したように驚きで開いた口元を隠す。


 ……あれ? お母様って意外に錬金術師について詳しかったのかしら?

 私は、お母様がそこまで驚くことに、びっくりしたけれど。


「でね。今度教科書の原案をご相談するにあたって、子爵家にお招きいただいたんです。で、その時には、年齢も身分も問わないから、錬金術師の職をいただいた子を一緒に連れておいでって言ってくださっていて……」

 私は、もう一つの報告について口にした。

 すると、家族みんなの視線がリリーに注がれる。


「私、ですか?」

 キョトンと瞳を大きくして、リリーはその視線を受け止める。

「そう。錬金術で有名なおうちの方が、リリーくらいの歳でもいいから、いらっしゃいって誘ってくださっているのよ」

 私のその言葉に、リリーは、目線をお母様の方へ向ける。


「お母様。私、お呼ばれって初めてだけど……大丈夫なのかしら?」

 うーん、と首を傾げてリリーが悩んでいる。


「先方は、良いって言ってくださっているんでしょう?」

 お母様が私に向かって確認をする。

「ええ。子爵家にはお孫さんもいるらしくて、子供の世話に慣れた侍女もいるので、気負わずにどうぞ、と勧められているんです。身分も問わないとおっしゃって下さっていますから、アトリエからも、二人連れて行こうと思っています」

 私が答えると、お母様は表情も明るく、ポンと手を打たれる。

「だったら、お邪魔させていただいても良さそうね。錬金術を生業とされているお宅だから、きっとリリーにもいい刺激になるでしょう!」

 そう言って、お母様がリリーをそばに引き寄せ、抱きしめる。

 リリーは、その腕の中で嬉しそうに微笑んで、「はい!」と元気に答えるのだった。

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