第184話 体力向上の実の増産

「ねえ、リコ」

 私は、今後の交配計画に思いを馳せているリコに声をかけた。

「どうしたの? デイジー」

 私は、リコが見ているあべこべの木ではなく、手のひらに載せた、新たに出来た『体力向上の種』をリコの目の前に差し出した。

「これを沢山増やせないかしら? 私やリィン、アリエルが体力が低くてね。ちょっと危ないって言われているから……」

 すると、リコが、瞳を輝かせて、任せなさいとばかりに胸を張る。


「デイジー! それは私の新しい力の見せ所だわ! 私の凄いところ、見せてあげる!」


 ……あれ? 今すぐ見せてくれるの?

 植物って妖精さん達が応援していても、育つのが少し早いくらいよね?


 私の疑問は他所にして、リコが、俄然やる気になっている。

「デイジー! そこの、あべこべの木の隣に、その種を植えてちょうだい!」

「う、うん……」

 私は戸惑いながらも、スコップを持ってきて、穴を掘り、種を植えた。


「ふふ。デイジー、見ててね! これが上級精霊の力よ!」

 私と入れ替わりに種を植えた場所の前に位置取るリコ。


「デイジーも覚えてちょうだい。これは『緑魔法』よ。成長促進!」

 そう言って、リコの手のひらから緑色の光が、種を植えた場所に降り注ぐ。

 すると、あっという間に芽が出て、双葉になり、幼い木になり、成長し、やがて花を咲かせる。


「妖精達、受粉を手伝うのよ!」

 リコが指示すると、彼女よりも小さく幼い容姿の妖精さん達が沢山集まってきて、咲いた花々の受粉のお手伝いをする。


「よし、じゃあ、さらに行くわよ! 成長促進!」

 すると、受粉済みの花は咲き終わって花びらを落とし、やがて小さな種子の赤ちゃんが顔を出す。

 そしてそれはグングンと大きくなって、あっという間に熟した大きな実になったのだ!

「リコ! すごい力だわ!」

 私は素直に称賛した。

 だって、あっという間に種が育って、木になって、実をつけたのよ!


 実際、大きく成長したその木は、たわわに実がなっている。

「さ、デイジー。これを収穫してね」

 この状況を見ても大丈夫なのは、アリエルかしら……。

 マーカスはさっき見たら、調合中だったし、ミィナはパン工房の対応で忙しいし、こんなのを見せたら腰を抜かしてしまうに違いない。

 私は、カゴを取りに行きつつ、アリエルを呼んで、一緒にその実を、種と分けながら収穫した。


「それにしても、『体力向上の種』ですか! すごいものができましたね! 沢山できたら、私にも分けていただきたいです!」

 ドレイクを目の前にして撤退した時、「体力に自信がない」と言っていたアリエルは、とても嬉しそうだ。

「勿論よ! ここに実った実の収穫が終わったら、リィンも呼んで、三人で食べましょう!」

「ありがとうございます! デイジー様!」


 そこに、リコが口を挟んだ。

「……デイジー? まだまだこれからよ? 欲しいんでしょう?」

 リコはニンマリと笑う。

「う、うん、三人で分けるから、たくさんあると嬉しいけれど……」

 あ。なんか嫌な予感がする。

「じゃあ、もっと回数こなさないとね! 妖精達! 受粉に備えてスタンバイよ!」

 リコが再び妖精さん達に指示すると、再び妖精さん達が集まってきた。

「はーい」

「わかったよ〜」


 ……スタンバイ? えっと、何回やるつもり?


「成長促進! はい、受粉して!」

「は〜い」

「成長促進! はい、収穫して!」

「「はっ、はい!」」

 すでに、私達二人も、扱いは妖精さん達と同じになってきている。

 こうして、最後にとうとう、『もう栄養すっからかんだよ! 無理!』と、そこの土が怒り出すまで、それは繰り返されたのだった。土には、作り置きの『豊かな土』を足して、栄養剤をたっぷり撒いておいた。


 そして現在。

 私とアリエルの目の前には、カゴの中にぎっしり入った(というか山のような)、カラフルピーマン風の実と、種を前にしている。

「……これを全部食べるんでしょうか」

 最初は喜んでいたアリエルは及び腰だ。

「こんなにカラフルピーマンばかり押し付けたら、ミィナが怒りそうね……」

 多分、食材を無駄にしたがらない彼女は、保存食作りに勤しむはめになるはずだ。


 まず、厨房に行って、怒られるのを覚悟してミィナに渡した。

「……ピクルス以外にも、保存方法を考えないと……」

 ミィナは、その多さに、怒るのを通り越して当惑していたから、その状態の時に、私達二人は厨房から脱出した。


 そして、問題の種だ。

 リィンを呼んで三人、私のアトリエ二階のリビングの椅子に仲良く座って、その種を前にする。

「……これを全部食べろと……」

 効果は事前に説明済みで、喜んでアトリエに招かれてきたリィンが絶句していた。

 私達三人の、それぞれの前には、木の器の中に、山のようにナッツ風の実が盛られていた。

「……ドレイク討伐のためだから」

 私とアリエルは、一連の騒動の中で、すでに諦めの体である。

「……じゃあ、食べますか」

 アリエルの言葉を皮切りに、ただ、三人で黙々とナッツを食べた。

 いや、ただ淡々と摂取していったといった方がいいのかもしれない。

 食べ終わって、鑑定で確認した結果、全員体力は二千近くになっていた。

 目的は達した。

 でも。


 ……ナッツはもうしばらく食べたくはない。

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