第176話 星のエルフの里
転送陣に触れると、景色が一転して変わる。
世界樹と思しき大木を中心にして、築かれた小道や街並み。その辺りは、陽のエルフの里と変わりはあまりない。
だが、その里の民と思われるエルフの容貌は、陽の里の者達とだいぶ異なったのだ。
真っ白な髪に、青や緑、赤といった、個体によって異なる瞳の色。そして、肌はやや浅黒く灰褐色だった。
「……っ、こんな時に侵入者!」
そのうちの、後方で弓を番えていたエルフの青年の一人が警戒心を露わにして私達に矢を向ける。
「……違う。よくみろ。私は陽のエルフの王女、アリエル。あなた達を助けにきた。ともにいる人間は私の友で頼りになる者達だ」
そう言って、アリエルが金の髪を耳にかけて、エルフ特有の尖った耳を露わにすると、ようやく相手の態度は軟化した。
「里の奥に、アンデッドが溢れ出てくる穴ができてしまった! 退治しても退治してもキリがないんだ! 助力願えるか?」
「勿論だわ! みんな、いいわよね?」
アリエルが、私達皆の目を見て確認をしてくる。
「「「勿論!」」」
私達は、案内役の別のエルフに案内されて、戦闘地域になっている場所へと案内される。ティリオンに乗ったアリエルが、上空から『穴』とやらを確認している。
「聖属性と火属性を持つ聖炎シリーズに持ち替えろ! 行くぞ!」
マルクとリィンとレティアが前線に駆けていく。
私は後方待機だ。すると、そんな私の横に、ティリオンに乗ったアリエルが降りてきた。
「倒しても、あれじゃキリがないのよね。開いている限り、どんどん湧くみたい」
「そもそも、あの穴をどうにかしないと、解決しないってことね」
「うん」
私は、どうしたものかと考える。
「どんな穴なの?」
「そんなに広くはないんだ。穴というか、裂け目というか……」
私とアリエルの問答が続く。
「埋められないのかしら、それ」
私が、アリエルに相談してみる。裂け目がいらないなら、ふさげばいい、ごく、単純な疑問だ。
あれ?
ミスリルか何かの、アンデッドが嫌いそうな金属で蓋をして、その蓋を接合すればいいんじゃないかと思ったんだけれど……。
穴から出てくるレイス(霊魂)っぽいものは、基本、積極的に攻撃はしてこない。
だけど、エルフ達が、「アンデッドを里に入れるな!」と言って一方的に排除しているように見えるのだ。
なぜなら、私はまだ一度もポーションを使っていない。
「ねえ、あれ、戦う気がある子、あんまりいないように見えるんだけれど……」
私がそう呟くと、アリエルも同じことを考えていたようで、うん、と縦に頷いた。
だって、退治し損ねたものは、ただ、上空へと飛んでいき、どこかへ去っていくだけだったのだ。
「ねえ、デイジー。あれ、ちょっと鑑定してみてくれない?」
ん? 何か思いつくことがあるのだろうか?
まだ倒されていない、出てきたばかりのレイスを鑑定の目で見る。
【霊魂】
分類:霊的物質
品質:普通
レア:C
詳細:地の底の冥界で、転生を待つ霊魂。一部を除いて無害である。
気持ち:僕たち、生まれ変わるのを待っているだけなんだ! 冥界に戻してよ!
ついでに、地に開いた亀裂を鑑定する。
【冥界への穴】
分類:世界の構成物
品質:普通
レア:S
詳細:地の底の冥界に繋がる、門。世界樹が弱ったことにより、大地の一部が崩れてできたもの。
通常はできない。これがあるということは非常事態である。
気持ち:世界樹の根の支えが足りない……。助けて!
……えええええ!
「どうしたの? デイジー。そんなに慌てる結果だったの?」
鑑定した結果を、アリエルに説明する。
「ちょっと待って、それじゃあ、あの子達を退治してしまったら……」
「転生するための魂が減っちゃうってことじゃあ……」
そこで、隣に控えていたリーフが進言する。
「デイジー様。まずは、目先にとらわれずに、世界樹の救助を行いましょう。根本的解決にはそれが良いかと」
そう言って、リーフは頭を垂れた。
「アリエル、アリエルは、害をなそうとする子以外は攻撃しないように説明してきて!」
「わかった!」
私のお願いを聞いて、ティリオンに乗って、アリエルが戦闘地区に飛んでいく。
私とリーフは、世界樹の前に立つ。
『痛いよう、苦しいよう。もう、根っこもボロボロになってぐらぐらするんだよう』
ここの世界樹も泣いていた。
……こんなに苦しんで。待ってて、今痛いの取ってあげる。
私は、両腕を広げて世界樹の幹に抱きついた。
「ねえ、世界樹さん。あなたはどこが苦しいのかしら?私、あなたを助けてあげたいのよ」
私は世界樹の幹に抱きついたまま、陽のエルフの里の時と同じように、目を閉じて『感じて』見ることにした。
目を瞑ると、世界樹は特別な存在だからか、その存在は瞼を閉じてもぼんやり光り輝いて見えた。そして、その真ん中の一箇所、私からも手が届きそうな高さに、黒い芋虫みたいなものがいるのが見えた。それは、 前回同様、異質で禍々しく、そして黒くあまり良くないと感じる何かを少しずつ吐き出している。
「……これだわ……!」
私は、目を瞑ったまま木の幹の『その部分』に腕を伸ばした。「とぷん」と腕が水に浸かるような感触がして、私の腕はすんなりと世界樹の幹の中に埋まっていく。そして、その禍々しい芋虫のようなものを掴む。そして、それを掴み取ったまま私は世界樹の幹から手を引き抜いた。
『ありがとう、愛し子様。あとは……、傷ついた僕の体を治して欲しいんだけれど、できる?』
「勿論よ!」
そう約束して、私は、アゾットロッドを構えるのだった。
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