第175話 採取、そして次の地へ

 私が駆け寄ると、ティリオンとアリエルが上手くヘイトを引きつけてくれたお陰で、重傷者はなし。私はほっとしながら、休んでいるみんなの軽い擦り傷や斬り傷を、ポーションで治して回った。

 ついでに、みんなに、少しずつポーションを飲んでもらった。

 みんな、想定外の難敵に、極度の緊張から解かれた疲労状態だ。体も心も疲労している。少量のポーションで、そういったものが回復できる。


 そうしてみんなを癒した後、ようやくみんなが活動し始めた。

 まずは、リィン。

 今回の採取の目的は、『万年氷鉱』だ。

「出ておいで、土の妖精達」

 そう声をかけると、凍った地面から、ぽこぽこと黄色い三角帽子の妖精達が姿を現す。


 ……今日は、以前のように筍のように生えてくるわけではないらしい。


 そして、リィンと一緒に、氷穴最奥の氷漬けの壁をぺたぺた触って調べている。

「あるよー!」

「リィンたん、あるよー!」

「僕たち頑張るよー!」

 土の妖精達が、リィンに声をかける。

 リィンにいいところを見せたいのか、やる気はマンマンのようだ。

 その言葉に、リィンが頷いた。


「じゃ、一肌脱いでもらうよ、妖精達!」

「「「おー!」」」

「鉱石抽出!」

 リィンが指示すると、わー、わーと言いながら小人姿の妖精さんが凍った壁に力を注ぐ。

 やがて、たくさんの小さな純粋な『万年氷鉱』が宙に浮き、リィンの手のひらの上に、沢山の拳大の塊が落ちていく。その量は多く、手に乗り切らずにゴロゴロと地面にまでこぼれ落ちた。

『万年氷鉱』の中に、小さいながらも一際輝く宝石が混じっていた。

「あれ?」

 リィンも気がついて、その石を摘んで、氷穴入り口方向の明るい方へとかざしてみる。


【氷の女王の涙】

 分類:宝石・材料

 品質:超高品質

 レア:S

 詳細:氷の女王が世界を憂えて涙を流すに至ったもの。その感情の結晶(以降、鑑定レベル、錬金スキル不足)。

 気持ち:鑑定レベル、錬金スキル不足


 あれ?これ、どこかで見たことがあるような……。

 あ!そうだ、世界樹の精神体であるピーターとアリスに名前を付けてあげたときに、涙のように零した宝石に似ているんだわ!

 でも、相変わらず、これも鑑定レベル不足かあ。

 と言ったことを、私はリィンに告げる。

「じゃあ、これは、『万年氷鉱』と一緒にデイジー預かりでいいかな?」

 リィンが尋ねると、他のみんながそれぞれ頷いて、同意してくれた。

 全部もらって、ポシェットの中にしまう。


 さて、帰るか、とマルクが腰を上げようとした時。

 アリエルが首から下げている、あの、エルフの里との連絡用の宝石が強く光ったのだ。

「ん……? これが反応するってことは」

 あたりをキョロキョロ見回すアリエル。そして、私の方に体を向けた。

「ここに、星のエルフの里への転送陣があるの。前の氷を溶かしたみたいに、ここの壁を溶かしてもらえないかしら?」

 そう言って、厚く凍りついた壁を指し示した。


 ええと、星のエルフというと……。

「確か、厄介な魔獣の対応に追われていて、世界樹どころじゃなかった里よ。そこからの救援要請とともに、転送陣があることを伝えて来ているみたい。それが、この反応よ」

 そう言って、アリエルが強い光を放つペンダントを掲げて見せた。


「星のエルフの里が、いよいよ危ないってことね」

「うん、そうだと思うの。デイジー、ここを溶かせるのはあなただけ。お願いよ」

 里は違っても同族を助けたいと願うアリエルの言葉に、私は迷わず頷いた。


 行くわよ。

『水は知っているね。温度が低いと氷になって固まり、温かくなると解けて水になり、火で加熱すると蒸発する』

 アナさんの教えだ。錬金術師は魔力で熱を生み出し、氷や金属を溶かすことができる。

 私はすうっと大きく息を吸って、アリエルの示した壁に両手をかざす。

「氷よ! 溶けて! 星のエルフさん達を助けたいの。道を、開けて」

 その言葉に、私のおへその下がどくんと脈打って、そこにあるという魔力溜まりから、魔力がごっそりと私の両腕の方に流れていく。

 そうして、私の手のひらから熱が生まれ、その熱が氷壁の氷を溶かしていく。

 やがて、氷壁の表面が溶け出した水に濡れ、たらりたらりと地面に水が流れていく。

 そうして、ようやく氷が薄くなってきた頃、うっすらと、その最後の氷の下に、魔法陣が描かれているのが目視できるようになった。

「後、もうちょっと……!」

 両足で踏ん張って、さらに熱を与えていく。すると、氷壁だったその部分だけ岩盤が露わになって、描かれた転送陣が、淡く光りだした。


「魔獣に手こずらされている里だ、侵入後、すぐに対応できる心構えでいろよ」

 マルクが皆に注意する。

「顔見知りもいるから、私が先頭で行くわ」

 アリエルが、魔法陣に手を触れると、吸い込まれるように彼女の姿が消える。

 そうして、私たちは、星のエルフの里に足を踏み入れることになったのだった。

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