第164話 相変わらずの我儘者達
溶岩鉱の素材合わせ、ねえ。
また何か我儘が始まらないといいのだけれど。
よいしょっと。
作業室の下の戸棚から基本のインゴットたちを出してくる。
そして、順番に溶岩鉱と近づけてみるのはいつもの手順ね。
【溶岩鉱】
分類:鉱物・材料
品質:高品質
レア:A
詳細:装備品に加工することで、三十%の炎属性の追加ダメージを与える。
気持ち:ミスリルがいいけれど、まだそれじゃあ俺の神がかった力は引き出せないね。
……始まった。
というか、神がかった力って何?
「ねえ、マーカス」
ちょうど、隣の台で、いつものポーション調合をしていたマーカスに、私は声をかけてみた。
「はい、えーっと、ちょっと待ってくださいね。……ん、ここでよし」
マーカスは、キリがいいところの見極めを慎重にしてから、スイッチを止めて、私の方に向き直ってくれる。
「デイジー様、どうかされましたか?」
「うん、今溶岩鉱をミスリルに溶かして武器のもとになるインゴットを作ろうとしているんだけれど、『神聖度』が足らないみたいなのよ」
うーん、と、眉を下げてマーカスに相談する私。
「神聖度、ですか……。普通、ベースの金属で神聖度が高いのがミスリルですしねえ。……それ以上ですか」
マーカスも首を捻ってしまう。
「やっぱりそう思うわよね」
「いっそ教会で聖水でも頂いてきたらいいのかしら?」
私たちの国の教会では、『聖水』という聖職者の方が祈祷をした水を販売している。それは、聖職者になるときの特別な洗礼式に使われたり、日常では魔除けに玄関に撒いたり……、なんて使い方をする。
「でも、溶けた金属に水ですか? ひどい結果しか想像できませんが……」
マーカスが私の思いつきに呆れたような顔をする。
「そうね。確かに短絡的すぎたかもしれないわ」
私も、前回の今回のと続く、素材達の我儘に、ちょっと思考することを放棄していたかもしれない。
そんな時、ふっとアトリエの受付カウンターの外側に、リリーが現れた。
「おねえさま、いたわ!」
私を見つけると、トコトコと歩いてくる。
……走って来なくなったのはお母様の教育の賜物かしら?
「私のはたけのそざいたちですうちをとりにいらっしゃるのはいつですか? リリーはおねえさまがいらっしゃるの、まちくたびれました」
そういって、ひょいっと椅子に腰掛けている私の膝の上に乗って、抱きついて甘えてくる。
ん? 勝手にお膝は良かったんだっけ? とは言っても歳の離れた末っ子にはどうしても甘くなる。
「そういえば、帰宅時にそう約束したままだったわね」
よしよし、と頭を撫でながら、「しまったわ、あれから日にちが経っているわね」と私は考える。
「季節が変わる前に、リリー様の実験室で数値をとられた方が良いのでは? それに、ちょうど行き詰まってらっしゃいますから、その気分転換になるでしょう」
そういって、マーカスは、絶賛我儘中の溶岩鉱を指差す。
そうこうしていると、後から、我が家の馬車がやってきた。
リリーに置いて行かれたケイトが中から出てきて、私に一礼をする。
「ね。マーカスもああいっているもの! いっしょにおうちにいきましょう!」
結局、誘われるがままに馬車に乗って実家に帰ることにした。
実家に到着して馬車を降りると、玄関前でセバスチャンを筆頭に出迎えをしてくれる。
一度居間に回って、お母様にご挨拶を済ます。お姉様、お兄様はそれぞれ職に合わせた訓練施設に出かけていて不在らしい。
私は、お母様に、いつものように、リリーの実験室を借りることを報告してから、リリーと一緒にまず畑へ出る。
「前の冬の時より、やっぱり葉が元気ね」
妖精達はいないが、春という季節の恩恵を受けて、素材達は青々と葉を広げていた。
「わたしも、ちゃんとまいにちあさゆう、おみずやえいようざいいりのおみずをかけてあげてるんですよ!」
そう、自慢げに報告してくるリリーに、クスリと微笑んでしまう。
だってね。
『リリーが大好き!』
素材の気持ちを鑑定で見ると、素材達がみんなそう言っている。大切に育てられている証拠だわ。
「みんなリリーの気持ちに応えようと、元気に育って、いい素材達ね。分けてもらってもいいかしら?」
リリーの頭を撫でながら尋ねると、元気に「はい!」と返事が返ってきた。
必要なだけ葉を採取して、二人で実験室に入り、腰を下ろす。
そうして、私は、教科書作成用のノートを開いて、メモを取る準備をする。
天秤を使って微細に材料を調整したら、あとはいつもの要領でポーションを作る。ちょうど良い塩梅でできたら、それをメモに取る。これの繰り返し。
うん、四種類とも、この季節の分はこれでいいかしらね。
後片付けをリリーに手伝ってもらいながら終わらせたあとは、居間に戻って、リリーの学業成果発表会のお披露目をしてもらった。もちろん、観客は家族と使用人達ね(笑)
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