第163話 我儘な素材達③

 ゴリゴリとトカゲの黒焼きを呪術師さながらに擦って小一時間。コンコン、とすりこぎを軽く叩いて、残った粉を払い落とす。

 そしてようやく、私は擦り終えた黒い粉を、錬金釜の脇に匙を添えて置く。


「そうだ、鱗と金属の素材合わせはしていなかったわね」

 ふっと、後回しにしてしまったことに私は気がついて、下の方の戸棚にしまってあるインゴット達を引っ張り出してくる。


『お。奴は相性が合いそうじゃねえか』

 色々並べたインゴットの中から、フレイムリザードの鱗はすぐにパートナーに目をつけた。

 あ。鉄に反応してる。

 鉄って面白いのよね。純粋なインゴットだと、ミスリルやアダマンタイトのレア金属には価値が及ばないようだけれど、結局混ぜて合金にしたときにいろんな顔を見せてくれる。もちろん強度も使い勝手も変わる。


 金属の跳ね防止のために厚手のエプロンをして。手袋をはめる。

 そして、錬金釜の中に鉄のインゴットを入れて、事前に砕いておいたフレイムリザードの鱗を入れる。撹拌棒で熱を加えて、溶け出したらぐるぐると掻き回し始める。


 と、ここでトカゲの黒焼きを入れるのよね。

 ……ほーんと、絵面がどこかの絵本の魔女だわ。


 まあ、いいか、と、気を取り直して匙で少しずつ黒い粉を釜の中に入れていく。


 ……美味しく頂かれてね〜。


 この念じ方で正しいのだろうか?

 でも……。

『おお美味え! やっぱりトカゲの黒焼きはサイコー! 力がみなぎるぜ!』

 すると、液体の金属が徐々に黒く色づき、やや禍々しいまでの黒い光沢を見せ始めた。

 うわ〜、なんか表面がテラテラ光っているわ。

 やがて、トカゲの黒焼きの粉を全て釜に入れると、釜の中が禍々しい光を放った。


 ……え、これ大丈夫?


【大喰らいの鋼】

 分類:合金・材料

 品質:高級品

 レア:A

 詳細:鉄にフレイムリザードの鱗とトカゲの黒焼きを混ぜたもの。武器にすると火属性の鋼の魔剣になる(追加効果あり)。

 気持ち:ハーッハッハッハッハ! 全てくらい尽くしてくれるわ!


 ……あれ。我儘くんから、覇王系に性格が変わっちゃった。

 しかも名前が『大喰らいの鋼』? 色といい、むしろ邪悪さすら感じるわ。

 それにしても、『追加効果』ってなんだろう?


 ……何か間違っちゃったかなあ。

 と、少し不安に思いつつも、ひとまずインゴット型に流し込んで、冷やしてから、リィンに預けることにした。


 帰ってきた鎧は凄かった。

 ちなみに、マルク用なので、マルクも呼んでいる。


【大喰らいの大鎧】

 分類:防具

 品質:高級品

 レア:A+

 詳細:火耐性を持った大鎧。十%の火属性ダメージを軽減する。さらに、被ダメージ全体の十%を吸収して装備者の体力を回復させる。名前の割には呪われてはいない。

 気持ち:攻撃くらったからって、タダじゃ済まさないぜ!


 インゴットの時の『喰らい尽くす』には遠く及ばないけれど、この吸収回復効果って地味に高性能よね。

 あ、要求通り共食いさせた結果が、多分、体力回復効果だよね。だって、想定外だもん。


 ということで、想定のものより良い防具が出来ていることをマルクに説明すると、彼は目を輝かせた。

「すっげえ! 俺の装備、超レアものばかりになってきてる」

 早速、マルクがその新品の黒い鎧を身にまとう。

「リィン、俺に攻撃してみてくれよ!」

 回復効果を体感してみたい様子のマルクがリィンに強請る。

「えー。仲間を攻撃ってわかってても嫌なんだけど……」

 リィンが顔を顰めて嫌そうに渋る。

 ……まあ、そりゃそうよね。

「でもほら、回復役の私がいるんだし。好奇心でちょっと痛い思いさせとけばいいんじゃない?」

 私が、フォローにしてはなんとも微妙な言葉を二人に投げかけた。


「ちょっと痛い思いって……」

 リィンは呆れ。

「デイジーが優しくない」

 マルクが拗ねる。

「でも、いきなり実戦するよりいいと思うわよ? 実際」

 私の言葉に、まあねえ、と、リィンがハンマーを構える。


 ……『ちょっと』痛めつけるにしては、絵的にちょっと違う。


 でもそのまま軽めにゴン、と背中にハンマーを打ち下ろす。

「いって! ……ん? でもなんか痛みが和らいでくる……」

 念のため、私もアゾットロッドから、ポーションを振りかけておく。


 うん、マルクの鎧は完成かな。次は、溶岩鉱を使った武器作りね!

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