第149話 溶岩洞窟へ行こう

 ある晴れた麗らかな春の日。

 ようやくマルクとレティアが討伐依頼を終わらせて街に帰ってきた。

 顔出しがてらアトリエに立ち寄ってくれたので、マルクにはネックレスを、レティアには、剣を手渡す。

 そして、それぞれの性能を説明した。

「お〜!ダメージ追加だけじゃなくて、環境対策まで考えてくれたんだ!」

 マルクがネックレスを眺めて喜んでいる。レティアも剣の出来に口の端をあげて満足そうだ。


 ……ま、武器は素材さんのわがままの産物というか、たまたまなんだけどね(汗)


「ご主人様、お客様ですか?」

 そんな時、ふわふわと宙を浮きながら、ピーターとアリスがこちらへやってきた。

 ああそうだ。彼らはよくアトリエに顔を出すから、ちゃんと紹介をしておかないとね。

「……人形が浮いて喋ってる」

 ピーター達を指さして、口をパクパクさせるマルク。

「まあ、デイジーんとこのアトリエだし、なんか出てきてもおかしくはないな」

 悟ったように、ウンウンと頷いているレティア。

 ……相変わらず対照的なふたりだわ。


「私は、デイジー様にお仕えする魔導人形のピーターと申します」

 そう言って、胸に片手を添えて執事らしく礼をするピーター。

「同じく、アリスと申しますわ。アトリエの皆様のお手伝いと、皆様の警護を任されております」

 アリスは、メイド服のスカートを摘んで、お辞儀する。

「……?人形が警護?」

 マルクがお約束の反応で、首を捻る。

 そりゃあ、動いて喋る謎人形だけれど、可愛らしい見た目。彼らが『警護』というのはイメージが結びつかないだろう。


「ご主人様。実演してもよろしいでしょうか?」

 ピーターが尋ねてくる。

「うん、でも御近所迷惑にならないようにね」

 私は、そう言ってピーターに許可を出した。

「……そうですね……」

 ピーターとアリスが辺りを見回す。すると、ちょうどアトリエ方面へ向かってくるカラス(多分畑目当て)が二羽飛んできた。

「よし、あれだ!氷の楔アイスエッジ!」

風の刃エアカッター!」

 彼らがそれぞれ魔法で生み出した凶器は、見事に一撃でカラスをしとめ、カーと悲しく一声鳴いて、カラスはパタリ、パタリと地面に落ちてきた。


「「このような感じです(ですわ)」」

 ピーターたちが、再び芝居がかった仕草でお辞儀をする。


「うっわー。また規格外なものを作り出したな〜」

「でしょ〜!」

 驚くマルクに、私はエッヘンと胸を張る。……が。

「まあ、デイジーだから」

「ああ、そうか」

 レティアの言葉に話は簡単にスルーされた。

 ……あれ?その辺だいぶ簡略化してきてない?

 自慢したいという私の気持ちは不完全燃焼のまま、置いてきぼりにされた。



 そして、数日後。

 私たちは、この国の南方にある、エストラド大火山の溶岩洞窟に採取に行くことになった。

 この火山は、山頂部まで登らずとも、過去の火山爆発で空いた横穴から侵入可能なので、そこから、侵入する予定だ。

 過去には、『溶岩鉱』や火山性鉱物の採取で栄えていたそうだが、モンスターが湧くようになって遺棄されている。

 目的は、『フレイムリザードの鱗』と『フレイムウルフの毛皮』と『フレイムワイバーンの皮』と『溶岩鉱』の採取。『ドレイク討伐計画』(勝手に命名)の折り返し地点ってところね!


「ルック、ちゃんと塾に通って、お勉強するのよ」

「はい!」

 うちから孤児院の私塾に通っているルックには、私がいない間にも勉強を怠らないように励ます。彼は、読み書き計算を先に私塾で修め、来年開校予定の国民学校では、錬金術科だけを選択することを目標にしている。


「ミィナ、マーカス。いつもどおりアトリエをよろしくね!」

「「はい!」」

 元気よく返事をしてくれる二人は、相変わらず頼もしい。


「ピーターにアリス。はじめてのお留守番になるけれど、アトリエに残るみんなに何かあったら、守ってあげてね」

「「勿論です(わ)!行ってらっしゃいませ」」

 二人は揃ってお辞儀をする。

 うん、頼もしいお返事だわ。この子達を造って良かった。お留守番組の安全度も上がるから、安心して採取に行けるわ。


 みんなに挨拶をして、いつもの北西門ではなく、南門で検閲を受けつつ街の外に出る。

 北西から南門、というか、王都の各門は、ぐるりと街道で繋がっているのだが、王都の中央通りを真っ直ぐ下った方がいいだろうというマルクの意見によって、街の中央集合にしたからだ。


 南門を出ると、街中の石畳だった道は、あっという間に土をならして整地しただけの素朴な街道に変わる。そこを道なりに南下していくのだ。

「エストラド大火山は、この国の一番南にあるから、野宿や、上手く行けば街道沿いの宿場町で宿をとりながら進むことになるな。南部には漁港もあるし、どこかの町で串焼きの海魚や網焼きの貝なんか食べるのもいいと思うぞ」

「貝……海魚……」

 私やリィン、アリエルなどの内陸から出たことがないメンバーは、はじめて食べる食べ物を夢想する。

「寄ろう!海の近くの町で美味しい物食べて帰りたい!」

 私の言葉に、リィンとアリエルがこくこくと頷いて同意する。

「じゃ、決まりな!観光だけじゃなくて、採取も張り切って頼むぞ〜!」

「「「「おう!」」」」

 まだ見ぬ南の地に思いを馳せ、街道を進むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る