第141話 涼しくな〜れ
「デイジー様、何をそんな難しい顔をしているんですか?」
「そうだよ、いい出来だろ?」
出来上がった品を確認して、腕を組んでたっている私を見て、マーカスと武器を持ってきてくれたリィンが不思議そうにする。
「だって、これを装備した人だけが、次の目的地で涼しいのよ?ずるいじゃない」
「「……」」
最後の本音に、二人が呆れている。
鑑定で残ったインゴットを見たら、『俺は武器限定』と言われてしまったのだ。
……むぅ。アクセサリーにしたら冷却効果付与アクセサリーになるかと思ったのに。
世の中そう上手くはできていないようだ。
じゃあ、小さい護身ナイフでも作ればいいんじゃないかって?
でも、『装備』しないと効果を発揮しないということは、マルクも私も両手持ちの普段の装備品を装備できなくなってしまう。
ちなみに、藍銅鉱だけ見ても特別な機能の付与効果はなかった。要は、樹氷鉱がメインであって、それを補助したに過ぎないのだろう。
「うーん。でも、熱いのは嫌だわ」
しかも、一部の人は涼しいのに私は熱いだなんて(問題はそこだ)。
「冷却機能のある装備品を作りたい!」
快適な採取の旅のために、私は決意するのだった。
……とは言ってもなあ。
私は、本棚のあるリビングで『鉱物辞典』と『素材辞典』を中心に探していた。
いや、あるのよ。有名な冷却素材。
『ドラゴンの鱗』。
でも、ドラゴンの劣化版であるドレイクを倒す準備のために、ドラゴンの鱗を買う(しかも超希少品なのでオークションレベル)って、どれだけ本末転倒なのよ。
……素材店巡りでもしてみるかなあ。
そう思って、本を本棚にしまってから、ポシェットを肩からかけて、階下に降りていく。
マーカスの様子を見ると、これからポーション作りを始めるようだ。
うん、邪魔するのはやめよう。
でも、リーフをお供にするとはいえ、一人で街歩きもなんだかなあ、そう思った時、リリーは、まだそういう経験はないから、目新しくて喜ぶんじゃないかと思った。
お勉強の時間だったら、声をかけずに一人で行けばいいし……。
私は実家に寄ってから、リーフをお供に店巡りをすることにした。
実家に行くと、リリーは居間で本を読んでいるところだった。
「おねえさま!」
その場に本を置くと、リリーは、私の元に駆け寄ってきた。
「今日はもうお勉強は終わったのかしら?」
駆け寄ってきたリリーを抱きとめながら尋ねる。
すると、通りかかったケイトが代わりに答えてくれる。
「はい、今日のリリーお嬢様のお勉強は午前中で終了しました……って、ええっ!」
ケイトは、顔を真っ赤にしてリリーが読んでいた本に駆け寄って、それをサッと背後に隠す。
……あー、アレね。『貸本』か。
そんなケイトを見て、リリーが口を尖らす。
「あっ!せっかくれいじょうと、となりのくにの、おうじさまが、であうところだったのに!」
リリーは本を取り上げられてご不満のようだ。
「ケイトの本はそんなに面白いの?」
「はい!かわいそうなれいじょうと、すてきなだんせいが、こいにおちるおはなしがだいすきなんです!」
ふーん、そういうラブロマンスがケイトのお好みなんだ。
つい、彼女の秘密を知ったようで、にまっとしてしまう。
ケイトは羞恥で真っ赤になっている。
でも、ケイトの様子から想像するに、これ、貸してもらったって訳じゃなさそうね。
「リリー、あのご本は、ケイトにちゃんと貸してってお願いしたの?」
すると、リリーがふるふると横に首を振った。
「……リリー様は、使用人寮の私の部屋に忍び込んで、本を持って行ってしまわれるのです」
ケイトが困ったように、私に事情を話す。
うーん、それはちょっと教えないとダメね。
「ねえ、リリー。リリーは、ケイトの部屋に勝手にはいるのよね?じゃあ、ケイトもこれからはリリーの部屋に入って、何でも持っていっていいことにしましょうか?いいわよね?」
すると、リリーはぶんぶんと大きく首を横に振る。
「ダメです!ないしょであつめた、たからものをかざっているんです!もっていっちゃ、いや!」
そんなリリーをじっとみて私はゆっくり伝える。
「……リリーに本を持っていかれるケイトも同じ気持ちじゃないのかしら?」
すると、「あっ!」とリリーが叫んで手のひらで口を抑える。
そして、やっとケイトの気持ちに気づいたようで、おろおろする。
「おねえさま。どうしよう」
そんなリリーの頭をぽふっと撫でて、「謝っていらっしゃい」と言って促す。
リリーは、ケイトのもとへ行って、頭を下げる。
「かってにほんをもっていって、ごめんなさい。こんどからは、ちゃんと、かして、っていいます!」
「え゛……」
返答に困って、私に救いの目を向けるケイト。
えーっと。確かに、ああいう俗な本を読ませてもいいのかは判断つかないわ。
結局お母様に相談して、『ケイトからちゃんと借りるなら』良しとされた。
「ケイトの好みは純愛で初心なお話だから、そう害はないでしょう」
というのが判断の理由だそうだ。
……そうじゃない恋愛ってあるのかしら?
私はよくわからなかったけれど。
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