第115話 リリーのポーション作り①

 私は気を取り直して、リリーと一緒にポーションにするための葉を選んで採取し、手を繋いで錬金術の作業部屋へ向かった。

 精霊王様の戯れのせいで赤くなってしまった頬の熱がまだ残っていて火照っている。


 ……っと、リリーと一緒にポーション作るんだから、気を引き締めないと!


 私は頬をペちペち叩く。

 リリーはそんな私を見上げて首を捻っていた。

 作業部屋へ行くと、まだ小さなリリーのために用意した、少し座る位置が高い子供用椅子を持ってきて、いつもの椅子と並べる。そして、ケイト用にももうひとつ。

 子供用椅子には、自分で座れるように一段踏み台兼足置きがついているので、リリーでも一人で乗り降りできるようになっている。

 自分用の椅子が用意されたと聞いて、喜んでリリーはその椅子に腰かけた。私はリリーの隣、ケイトは私たちを背後から見守るように椅子に腰を下ろした。


「リリー、癒し草と魔力草の葉っぱを少しずつ齧ってみて」

 うん、と頷いて、それぞれの葉をかじる。そしてみるみるうちに、眉間に皺が寄る。

「おねえさま、にがいです〜」

 そして、ゴミ入れの中にペッと吐き出した。

「そうね。そういう時は、『下処理』をするのよ。見ていてね」

「したしょり」

 頷きながらリリーが反復する。


 私は、椅子から立ち上がり、癒し草と魔力草を塩で揉んでお湯でサッと下茹でし、すぐに冷水で冷やす。そして、水気をよく切った。

「で、みじん切りにするの」

「みじんぎり」

 そうして出来た癒し草と魔力草の混合物をビーカーの中に入れて、水を加える。

 ビーカーは、加熱器の上に載せる。

「これは、加熱器よ。加熱器は、蒸留機にもついてたから、わかるかしら?」

「うん!あの、おみずがぷくぷくってなるやつね!」

「そうね。よく覚えていたわね」

 偉いわ、と言って頭を撫でると、リリーは嬉しそうに笑う。そして、加熱器の操作の仕方を教える。

 そして、ポーションが完成するまでをやって見せた。


「おねえさま、スプーンと、ちいさなおさらをちょうだい」

 ……スプーンとお皿を何に使うのかしら?

 不思議に思ったけれど、リリーに渡す。

 リリーがスプーンでビーカーの溶液を少しすくって、お皿にのせる。ふうふうしてから、それを飲んでしまった。

「うん、あまくてのみやすいわ!」


 ……味見をしたかったのね。


「じゃあ次は、一回自分でやってみる?」

「うんっ!」

 リリーが嬉しそうに大きく頷く。

 ビーカーに、残っている素材と水を入れて加熱器の上に乗せてやる。

 すると、リリーは、加熱器のスイッチを入れた。

 ビーカーの周りに気泡ができて、小さな気泡が付き始めた。


【ポーション???】

 分類:薬品

 品質:普通 ーーー

 レア:C

 詳細:有効成分は薄め。

 気持ち:まだまだだね!


 リリーがまた味見をする。

 ……えっと、ポーションの材料は毒性がないから大丈夫、かな?

 でも、何でもかんでも飲んでいいわけじゃないし、癖になったら困るわね。なので、味見は味だけ確認したら吐き出すように言って、コップを手渡した。

 リリーがぺっと溶液を吐き出してから、口をへの字にする。

「ぜんぜんあじがしないわ」


 もう少したつと、気泡が大きくなってきた。


【ポーション】

 分類:薬品

 品質:普通

 レア:C

 詳細:有効成分はまだ薄い。

 気持ち:一般品のポーションってとこかな。


 リリーがまた味見をする。

「まあ、それなりによさそう」


 さらに経つと、時々ポコポコし始めた。

「時々混ぜてあげてね」

 そういう私の言葉に頷いて、リリーはスプーンで溶液を撹拌した。


【ポーション】

 分類:薬品

 品質:高級品

 レア:C

 詳細:有効成分が十分引き出されている。ほんのり上品な甘みがある。一般品の2.0倍の効果を持つ逸品。

 気持ち:よく出来ました!


「あ!おねえさまのと、おなじあじがする!」

 リリーは、加熱器のスイッチを自分で止めた。

「できたわ!わたしの『ぽーしょん』よ!」


 ……えーっと。


「……ねえケイト」

「はい」

「……五歳の初めてポーション作ってみた子が、ポーションを完成させられるものかしら?」

「……そんな方にお仕えしたことがあった気がしますけどね」

 そう言って、ケイトが、ちら、と私を見る。

 いや、私の時は色々失敗もしたわよ?


 ……ギフトのせいよね、きっと。これはまずいわ。バレたら、元両親から「返せ」って言われるわ。


 リリーは、キョトンとした顔をしている。

「おねえさま、これできてないですか?」

「ううん、完璧よ!初めてなのに凄いわ!」

 リリーの両頬を手で包み込んで、おでことおでこを重ねてスリスリしながら褒める。

「じゃあ、まだ葉っぱのカスが残っているから、取り除こうね」

 そう言って、私はポーションを布で漉してポーション瓶に入れた。リリーも見様見真似でやってみる。少し失敗して、一瓶分は零してしまったけれど、最後まで出来た!と言ってポーション瓶を持って胸を張っている。


 その日は、リリーと一緒に実家に帰ることにして、お父様とお母様とリリーと一緒に今日のことを報告した。

「……一度味見をしただけで出来た?」

 お父様が絶句していた。

 うん、まあそのお気持ちはわかるわ。

「えーっと、リリー。どうしてデイジーと同じように作れたのかしら?」

 お母様が困惑したような顔でリリーに尋ねた。

「おみずがポコポコするかんじと、あじがおなじだっておもったの」

「鑑定で確認したのですが、技能神様の御加護と、特別な五感を持っているらしくて……」

 私が鑑定で確認したことを、お父様とお母様にも伝えた。


「なるほどね、だから、見たものや味を確認したものの模倣が可能なのか。でも、そうするとなぜ、あの両親は加護を持つような子を放逐したりしたんだ……?」

 お父様は理解できないといった様子で、首を捻った。

「五感の良さは生まれつきのようですが、御加護については、放逐されたリリーを技能神様が哀れんでお授けになったと、精霊王様に教えていただきました」

 その説明に、お父様が「なるほど」と頷く。

「まあ、国王陛下にもご署名いただいた念書があるから、返せとは言えないだろう。やりすぎかとも思ったが、陛下にまでお願いした甲斐があったということか」

 深刻そうに話す私たちを見て、リリーは少し不安そうな顔をしている。

「大丈夫」

 そう言ってお父様が立ち上がってリリーの元へ行き、抱き上げて頬ずりする。

「リリーのことは、お父さんも、みんなも守るから、リリーはなんにも心配いらないよ」

「はい!」

 リリーは擽ったそうに笑ってお父様の腕に抱かれていた。

 リリーは既に我が家の可愛い末っ子だ。子供を家の道具としか思っていない元の親のところに戻すことなど、もう家族の誰も認めはしないわ!

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