第106話 ドレイクまでの道のり

 お兄様とお姉様の決闘が終わって、アリエルもようやく我が家のアトリエへ引っ越してきた。結局彼女の希望通りパン工房のお手伝いをすることになったので、彼女の身分証明書は商業ギルドで『商人見習い』という身分を取得できた。まあ、なぜ『職業証明書』を持っていないエルフの彼女が『商人見習い』で登録できたのかと言うと……まあ、あれです。さすがに国王陛下にエルフの王女を預かっていることを黙っている訳にもいかないので、正直にご相談したところ、なんだかうまいこと取り計らっていただけました。ティリオンも彼女の従魔として登録して、今は、堂々と街中を歩けます。


 ……でも、なんで私のアトリエなら安全だから、と割とあっさりうちに住むことを許されたのかはわかりません。リーフが実は聖獣とか、精霊や妖精が住んでいたりという情報は秘密のはずなのにね?


「お買い上げありがとうございましたぁ!」

「「アリエルちゃん、またね!」」

 いつも新作が出るとお土産を四個買っていく、男女ペアの冒険者さんと、アリエルの声がする。常連さんとも上手くやっているみたい。


 マーカスも、アリエルがパン工房のお手伝いに入ってくれたおかげで、錬金術の方に割ける時間が増えて喜んでいる。

「先日デイジー様が完成させた強力魔力ポーション、売れ行き好調なので私も作れるように練習します!」

 そう言って、今日は実験室に籠っているのだ。


 ……実験室も空いていないし、何しようかしら。


 そんな時、アトリエの表に出ると、リィンとマルク、レティアとアナさんが揃ってやってきた。

「よっ、デイジー、今話せる?出来たらアリエルも空いてると嬉しいんだけど」

 パン工房の方で接客しているアリエルの様子を伺いながら、リィンが声をかけてくる。


「あ、ちょうどパン工房の方はお客様が途切れたところなので、私ひとりで大丈夫ですよ!」

 ミィナが気を利かせてくれる。だったらとお言葉に甘えて、来客に加えてアリエルも一緒に二階のリビングで話をすることになった。


 みんながテーブルを囲んで椅子に腰を下ろす。ミィナが気を利かせて、客足の様子を見ながら冷たい紅茶を出してくれた。テーブルの足元には小さな姿のレオンとリーフが伏せをしている。

「で、話ってなあに?」

 冷たい紅茶で喉を潤してから、私は本題について尋ねた。

「……ドレイク攻略したかったんじゃなかったっけ?」

「うん!したい!」

 リィンの言葉に、私はテーブルに両手をついて勢いよく立ち上がると、テーブルの上のグラスの中の液面が小さく揺れた。

「……落ち着け。ちゃんとそれを叶えるための相談をしに来たんだから」

 どうどう、とリィンに肩をポンポンされて私はいなされて、再び椅子に腰を下ろす。


「全くお前たちと来たら、引き返してきたからいいものの、何の準備もなくドレイクのいる所に挑んでくるなんて」

 ご意見番として呼ばれたアナさんが呆れて深い溜息をつく。

「……ごめんなさい」

 うん、こればっかりは謝るしかないよね。私は素直に頭を下げた。


「まず、全員属性というものについてちゃんと理解しているか判らないから説明するよ」

 そう言って、アナさんが属性の相剋関係を説明し始める。

 内容はこうだ。『火と水』、『風と土』、『光と闇』、『聖と邪』のように、エレメントというものは、互いに強みを持ち弱くもあるという関係性を持つ。なので、『火』の攻撃力を誇り、『水(氷)』に弱いという性質を持つドレイクを討伐したいのであれば、『火』の耐性を強化し、『水(氷)』の追加ダメージを与えられるように準備しなければならない。


「最終的に欲しいのは、『火鼠のマント』と『万年氷鉱』を溶かしこんだ金属を使って作る武器だよ」

 アナさんが、そばにある本棚から、『魔獣図鑑』と『素材図鑑』を持ってきて、『火鼠』という魔獣と『万年氷鉱』という鉱石のページを開いた。

「じゃあ、『火鼠』を倒して、『万年氷鉱』を取ってくればいいのね!」

「『最終的に』と言っただろう!」

 ゴン、と図鑑の角でアナさんに小突かれた。

 ……角……酷い。くすん。

「「「……デイジー……」」」

 なんかみんなもちょっと呆れた顔で見てる。酷い。くすんくすん。


 ……と、話を本題に戻さなきゃ。

「……じゃあ、どうするの?」

 私は小突かれた頭を抑えながらアナさんに尋ねた。

「まずは、あんた達の実力なら無難に入手出来るはずの『黒溶鉱』を入手して、十五%の火属性の追加効果のある武器を揃える。そして次に、その武器を持って『樹氷鉱』を取りに行き、十五%の氷属性の追加効果のある武器を作る。……さらに」

「え?まだぁ?」

「……デイジー……。本来攻略っていうのはこうやって手間がかかるもんなんだぞ?」

 説明の長さに文句の声をあげた私がまた小突かれないように、マルクが先手を取って私の頭をぽふぽふしている。うん、だってまたアナさんが本を手に持っているもの。

「……全く。でだ、さらに、氷属性の武器を持って、『フレイムリザードの鱗』『フレイムウルフの毛皮』『フレイムワイバーンの皮』『溶岩鉱』を取ってくる。これで、マルクの鎧、全員の服と従魔のスカーフ、リィンとレティアの皮鎧と、デイジーとアリエルと従魔の胸当てを作るんだ。これで十%の火耐性が付く。武器も火属性三十%付与にする。で、次に『万年氷鉱』を入手して、三十%の氷属性の武器に持ち替えて、火鼠を倒しに行く」


 まあ、長いので纏めるとこういうことになる。

 ①『黒溶鉱』入手→武器作成(武器に十五%の追加ダメージ(火))

 ②『樹氷鉱』入手→武器作成(武器に十五%の追加ダメージ(氷))

 ③ 以下を入手、防具と武器を作成する。

『フレイムリザードの鱗』

 →作成鎧(火ダメージ十%減)マルク☆

『フレイムウルフの毛皮』

 →毛を糸紬で混ぜ込んだ布地(服、スカーフ)を作る(火ダメージ十%減)全員分と聖獣分☆

『フレイムワイバーンの皮』

 →皮鎧と胸当てを作る(火ダメージ十%減)レティア、リィン、デイジー、アリエル、聖獣☆

『溶岩鉱』

 → 武器作成(武器に三十%の追加ダメージ(火))

 ④③の武器を持って『万年氷鉱』を取りに行く→武器作成 (武器に三十%の追加ダメージ(氷))☆

 ⑤『火鼠の皮』入手→全員分の火鼠のマントを作る(火ダメージ三十%減)☆

 ⑥ ☆を装備してドレイク討伐


 う〜ん。道のりは長いわね。マルク達の空いている時に少しづつ進めるしかないかしらね。

 でも、所詮火『鼠』さんなのに、どうしてそこまでしなきゃいけないのかしら?水魔法でお水かけたら火が消えちゃうくらいなんじゃないの?そう思わない?

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