第105話 妖精達の忙しい一日
私は、緑の妖精から進化した精霊の女の子。デイジーと一番の仲良しだって自負しているわ!
世界樹がやってきてから、デイジーの畑の状態はすこぶる良いのです。イキイキとした葉を茂らせているのは言うまでもなく、成長自体も早くなりました。
そして、世界樹自身の成長も早い。既にデイジーの背丈を超え、とうとう花を付けました。世界樹の花の蜜は私達精霊や妖精たちのあまーいご馳走なので、代わる代わる世界樹の花にキスをしています。
そんな平和なデイジーの畑にも、天敵たちはいるのです。
イキイキと茂る美味しそうな葉を食べに来る幼虫や、実った実を食べに来る小鳥やカラス達です。
ある日、デイジーの畑に植わっている『万年草』、栄養剤の材料になる栄養価が高い植物に、蝶が一匹迷い込んできて卵を産んで行ったから、さあ大変!
卵は順調に成長し、たくさんの小さな芋虫たちが孵り、葉っぱを「さあ食べよう!」と群がります。
「大変だわ!」
私はその光景を見て顔が真っ青になりました。
ここはデイジーがとっても大事にしている畑。そして、彼女の錬金術には欠かせない素材がたくさん植わっている畑なのです。
……芋虫たちに食い荒らされたら、デイジーがとっても悲しむに違いないわ!
「妖精達!集まりなさい!事件発生よ!」
私は、デイジーの畑にいる妖精達を集合させました。
「みんな聞いて!たくさんの芋虫が孵って、デイジーの大事な素材の葉っぱを食べようとしているのよ!」
私は、妖精達に事情を説明します。すると、集まった妖精達も大慌て!
「葉っぱがかじられたら大変だ!」
「デイジーが悲しむよ!」
「デイジーが泣いちゃったら精霊王様にお叱りを受けちゃうかも……!」
「「「どうしよう!」」」
妖精たちは右往左往する。
「みんな!慌てないで!幸いデイジーのおうちは、王都の端っこにあるわ。だから、壁を越えて芋虫を野原へポイッとすれば、彼らは外で生きられるし、デイジーの畑にも被害はないわ!」
私は、解決策を提案します。
「それはいいね!」
「みんなで一匹づつ捕まえて外に出せば、全部追い出せるんじゃない?」
「でも、僕達のことは人は見えないけれど、虫は見えちゃうんじゃないの?」
「芋虫が空を飛んでいたら変かな?」
「まだ小さいし、そんなに気にしないんじゃないの?」
パンパン!と手を叩いて口々に言いたいことを言っている妖精達を黙らせます。
「人がいないルートを通ります!じゃあ、作戦開始よ!」
私と妖精達は、一人(?)一匹づつを捕まえて、次々に空を飛んで壁を越え、王都の外の野原へ芋虫を放り出すのを繰り返します。
何度か往復すると、やっと芋虫は全て排除出来ました。
「「「やったね!」」」
妖精達は、ハイタッチをします。これで、私たちの大切なデイジーが悲しむことはありません。
ところが。
そんな喜びもつかの間、今度は、カラスがやって来ました!目当ては、デイジーが実がなるのを楽しみにしていた、『すばやさの種』と『力の種』の実です。デイジーが、種を増やして交配してみるのを楽しみにしていた、あの種です。中に入っている種まで持っていかれては大変です!
「「「うわ、大きい!僕たちには無理だよ!」」」
まだ小さな妖精達は怯えてしまっています。それはそうでしょう。彼らよりカラスの方が大きく、そして鋭い嘴につつかれたら大怪我をしてしまいます。
「私がやるわ!みんなは避難していて!」
私は精霊。大きくなっただけでなく、魔法も使えます。デイジーのために、追い払わなくっちゃ!
「
とは言っても、私が出せるのは、小さな私と同じく細い蔦たち。
でも、ぎゅーんとカラスに向かって蔦は伸びて行って、カラスを追い払うようにペシペシ叩きます。
「ガァガァ!」
カラスは怒って蔦を嘴で挟もうと躍起になりますが、いくら捕まえても、次から次へ蔦が伸びて来て体を叩かれるので、嫌になって飛んで行ってしまいました。
「「「やったぁ!」」」
私も妖精たちも一安心です。
これでデイジーの楽しみにしていた種も無事に熟すでしょう。
ところが、喜んだのもつかの間!
今度はアリです!
今日はなんて忙しいんでしょう!
アリが隊列を組んで、またもや『すばやさの種』と『力の種』の実に群がろうとやってきました。
「「「蟻は無理だよ〜」」」
彼らは、妖精達が捕まえると、反撃に噛み付いて来るのでとても痛いのです。私たちの天敵です。
「「「どうしよう!」」」
もう、アリ達は、まさに木に登らんとしています。
そこへ、猫獣人のミィナがやって来て、アリがいるのに気づいてくれました!
「はわわわ!大変です!アリが行列を作ってデイジー様の大切な木に登ろうとしてます〜!」
ホンワカとした口調とは裏腹に、ミィナは靴底で行列を組んでいるアリを順々に踏んでいきます。そして、その足はやがて、新しく庭に出来たアリの巣に辿り着きました。
「もぅ〜。お庭に巣なんか作らないでくださいよ〜」
そう言うと、彼女はやかんに熱湯を沸かして持ってきて、巣穴を水没させます。
「ん。まだ出てきますねえ、もう一回〜」
さらに熱湯を注いでしばらく待っても、アリは出てこなくなりました。
……可愛いのにやることえげつない子ね……。
「これでもう大丈夫ですね〜」
にこにこ笑って、畑のトマトを収穫すると、空のやかんを持ってミィナは行ってしまいました。
夕方。
デイジーが、私たちの好物のジャムを持ってやって来ました。
「いつもありがとう!」
平和な畑の様子を見てデイジーはご機嫌です。畑に置いてある小さな物置の上に、私たちのためにジャムを入れたお皿を置いてくれました。
「「「仕事のあとのジャムはひときわ美味しいね!」」」
妖精も私も、一緒になってご褒美のジャムを舐めました。
「デイジー、今日も畑は無事よ!畑のことは私たちに任せてね!」
私がデイジーの前までふわりと飛んで報告すると、デイジーはその綺麗な空色の瞳を細めて笑顔になります。
「いつもありがとう。頼りにしているわ!」
私は、やっぱりこの笑顔が一番大好きだわ!
そう、今日の幸せを噛み締めるのだった。
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