第85話 アイスゴーレム戦①

 氷の洞窟の最奥に立ちはだかったアイスゴーレム。そして床面も氷で覆われていて足元も覚束無い。

 その難敵、難況を前に私たちは足を踏み出せずにいた。そして、まだ距離があるからか、アイスゴーレムも起動はしていなかった。


「デイジー、火魔法は?」

「ごめんなさい、出来ないわ」

「リィン、鍛冶師って火を……」

「それとこれとは違う」

 マルクが戦力を全部把握できていない私とリィンに、なにか打開策がないかを探って質問してくる。


 ……そう、私は四属性の中で火だけはどうしても出来なかったのよね。


 火魔法って、冒険者とすると、素材を焼いてダメにしてしまったり、森の中では使えないから、現場ではあまり役に立たないしいいかなって思っていたんだけれど……。まさか、こんな状況に出くわすなんて。


 ……火じゃなくてもいい、溶かせればいいのよね。でも、そんな方法あったかしら?


「私たちは、ブーツをピック付きに変えるけど、そっちは動けるか?」

 マルクとレティアは、こういう時用に専用のブーツを持っていてそちらに変えるらしい。


「私達は脚に鋭い爪を持っています。デイジー様とリィン様は、私達に騎乗していただいていれば動くのに問題は無いかと」

 リィンの聖獣であるレオンが答えた。その言葉にブーツを履き替え終えたマルクが頷く。


「……今なら引ける。あれは厄介だ。それでも行くってことでいいか?」

 最後にマルクが全員に確認する。

 リィンの肩の妖精さんが、アイスゴーレムを指さして頷いている。

「ここには、何かある。それをいただく!」

 土の妖精さんの様子を確認すると、リィンがはっきりと返答した。すると、安心したかのように土の妖精さんは空気にとけるように姿を消した。


「あいつが亜種でもゴーレムだとしたら、潰すところは内部にある魔石だ。それを探し出して潰す。いいな!」

 マルクが全員に最後の確認をとる。

 全員無言で頷いた。


石の楔ロックバイル!」

 私が先制で、魔力を練り上げ、アイスゴーレムのいる下の土に命じる。すると、氷の床を突き破って楔状の太い岩が何本も生え、アイスゴーレムの体を粉々に破壊した。


 ……あれ?もっと硬いんじゃないの?

 致命傷ではないにせよ、いともあっさり体を破壊できたことに驚いた。


 赤い血色をした核は、ゴーレムを人とみなすなら、その心臓がある部分に存在していた。しかし、氷の欠片となったアイスゴーレムを形成する氷たちは、砕けた欠片は地に落ちずに宙に留まり、再び核の周りに引き寄せられて、元に戻る。

「胸の中央、心臓の部分、そこに核があるわ!」

「「「了解!」」」


 ……核の場所さえ解れば、あとは、消化試合ね!

 でも、私の魔法程度で思ったよりあっさり体を破壊できたことに、拍子抜けと言うよりは、なにか一抹の不安を感じた……。


「レオン!あいつのとこに飛べ!」

「承知しました」

 リィンを乗せたレオンが後ろ足の太い爪を氷に引っ掛けて、力強く飛び出し、アイスゴーレムに肉薄する。リィンはハンマーを両手に持ち替え、渾身の一撃を振るう構えをとる。そして、手で体を支えられない分、両のうち腿に力を込めて聖獣に体を固定する。

「まとめて潰し損ねたら、マルク、レティア、核は頼んだ!」

「「了解!」」

「うおぉぉりゃあ!」

 そして、リィンの渾身の一撃がアイスゴーレムの胸を襲う。胸は粉々に砕け散り、赤い魔石が宙を舞う。

「うっしゃ、貰ったぁ!」

 マルクが駆けて行って、ハルバードの斧頭を撃ち下ろして赤い魔石を粉々にした。


 赤い魔石の欠片は、アイスゴーレムを構成していた氷の欠片と共に、パラパラと氷の床に舞い落ちる。


「「よっしゃ!」」

 リィンとマルクが、腕をぶつけ合い、勝利を祝った。


 勝利に酔う私たち四人。だが、リィンの肩に再び現れた黄色い小人さんは、慌てた様子で違う違うと首や手を振っている。

「……やっぱり終わりじゃ、ないの?」

 他の三人とは距離をとって佇んでいる私は、遠くに見える黄色い小人さんの慌てた様子に首を傾げた。

 そして、その答えは直ぐにやってきた。


 氷の洞窟の内部が地響きをあげて、まるで巨大な地震にでも見舞われたかのように震え出す。天井から無数にぶら下がる氷柱の一部が折れて宙に浮いて留まり、その鋭利な先端を私たち四人に向けていた。黄色い小人さんは慌てて姿を消した。


「……ちっ、そういう事か!」

 レティアが舌打ちする。そう、私たちは勘違いしていたのだ。

「ゴーレムは一体じゃない。この洞窟自体も、ゴーレムだ」

 レティアの言葉に、私は混乱する。ゴーレムとは、体のどこかに魔石という核を持ち、それを破壊しなければ倒すことは出来ない。


「……この広い洞窟のどこに核があるって言うの……?」


 ビュン!と音を立てて、氷柱が私たち四人をいっせいに襲った。

 マルクはハルバードでたたき落とし、レティアはその身軽な動きで横に逸れ、攻撃を防ぐ。そして、私とリィンの前には『精霊王の守護の指輪』のおかげで物理障壁が展開されて、氷は目の前で破壊される。


 ……一撃目は、全員無傷。


 そして、再び天井あたりでピシピシと氷柱が折れる音がする。氷の洞窟に擬態したゴーレムが、二撃目の準備をする。次は、一人一本ずつでは無い。そして、退却を許さないという洞窟の意志かのように、入口側の氷柱も折れて宙に浮く。私たちは氷柱に周りを囲まれていた。

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