第71話 マルクとレティア
「アナさんから、凄いもの出来たって聞いたから、来たぞ!」
『守護の指輪』を渡すべき最後の二人が、私のアトリエにやってきた。
声の主で冒険者のマルクとレティアだ。
「えっと、物がものだから、中入って貰えますか?」
そう言って、二人を誘って奥の作業場へ移動した。
部屋を移動して、鍵をかけてしまっておいた指輪を引き出しから取り出して、手のひらに載せて二人に見せた。
「これは、『守護の指輪』と言って、あらゆる状態異常を防ぎ、装備者の体力を徐々に回復する魔法の指輪です。ちなみに、悪しき心を持った方が装備しても効果は発揮しません。お渡ししようとしているのはこれです」
「「……」」
二人とも無言だ。
「えっと?」
私は首を傾げる。
「えっとじゃないよ!どんな状態異常にもならなくって体力自然回復!?そんなん国宝級じゃないか!」
「……驚いた。想像の遥かに上行ってるし」
国宝級と騒ぐマルクと静かに驚くレティア。
「じゃあいらない?」
ちょっと冗談半分に聞いてみた。
「欲しいに決まってるだろう!前に会った時に、状態異常攻撃持ってる魔獣にてこずってるって言っただろう!」
マルクに怒られてしまった……。
「一体いくら払ったらいいんだ、これ……」
レティアもぼそぼそ呟いて悩んでいる様子だ。
「リィンとも相談したんだけれど、素材採取の時の『マルクとレティアへの護衛依頼無制限指名料』っていうので払ってもらうっていうのじゃあダメかしら?」
私は、リィンと話し合ったことを、マルクたちに申し出てみた。
「……体で払えってことか」
うんうん、と頷くレティア。
「何納得してんだレティア!それで済む品じゃないだろう!……ったく、リィンといいデイジーといい、二人とも職人としてもっと金に関してシビアにならなきゃダメだろう!ちょっと、三人でリィンのところに行くぞ!」
そうして、私もレティアもマルクに言われるままにリィンのもとを訪ねることになった。
マルクの先導で鍛冶屋職人地区へ向かい、リィンの工房の入口へとたどり着く。
「リィン、いるかー?」
マルクが、開いた扉から、中へ声をかける。すると、リィンは中で作業中だったようですぐに返事の声が返ってきた。
「こら、リィン。例の指輪だけど、『護衛してくれるならタダ』ってどういうことだ。ちゃんと職人として、貰うモンは貰わなきゃダメだろうが!」
「あ、やっぱダメだった?」
リィンが肩を竦めてペロッと舌を出した。そんなリィンにマルクがゲンコツをかました。
……仲良いなあ。
痛そうだが、なんだかああいう気安い関係というのは少し羨ましい気がした。
「だったらどうするのさ」
頭を擦りながらリィンが口を尖らす。
「一個あたり一千万リーレ払う。だから、リィンとデイジーにそれぞれ大金貨一枚ずつな。その上で、護衛依頼はスケジュール次第だがちゃんと受ける。一千万でも安いと思うぞ。ちゃんと受け取れよ?」
マルクが私たちの諭すように言う。
「「はい」」
私達は、素直に頷く。
「レティアもそれでいいよな?」
マルクが確認すると、レティアも「ああ、それでいい」と言って頷いた。
そうして、ようやく指輪の値段が決まり、私達は、マルクがマジックバッグから出した大金貨を一枚ずつ受け取る。そしてようやく私は、指輪をマルクとレティアに渡せたのだった。
◆
私達は、そのままリィンのお祖父さんの工房にお邪魔していた。
今は、休憩用のテーブルセットに腰かけて雑談中である。
「で、デイジーとリィンはどこか素材採取に行きたいところがあるのか?」
マルクが尋ねてくれた。
「アタシは今のとこないな。まあ、ゆくゆくはデイジーと組んで魔剣とかすごい耐性のある鎧とか作ってみたいけど。そういうデイジーは何かあるのか?」
椅子の背もたれに肘をつきながらリィンが聞いてきた。
「『賢者のハーブ』と『癒しの苔』が欲しいのよね。あとは、家族が魔導師だからローブの素材になる糸素材とか?」
私もリィンにつられて素材採取の希望を語る。
「『賢者のハーブ』と『癒しの苔』って素材は何に使うんだ?」
聞いたことも無い素材のようで、レティアが首を傾げながら聞いてくる。
「マナポーションの上位版が作れるの。迷宮都市のダンジョンに潜る魔導師さん達のマナポーション摂取量が減れば、おトイレ事情も解消するんじゃないかなって思って」
「おトイレ事情?」
レティアがよく分からないと言った顔をする。そして続けてこう言った。
「トイレなんて、そこらで隠れてすればいいじゃないか。私はそうしているぞ」
そう言いきった『女性の』レティアは真顔だ。
すると、マルクがレティアの後頭部をパコンと叩いた。
「……お前はもうちょっと女としての恥じらいをもて!」
どうもこのパーティーは、マルクがツッコミ、レティアはボケ役のようだ。
ともあれ、二人は状態異常攻撃を持った魔獣退治の指名依頼がたまっているようなので、それを先にこなしたら採取に行こうという話になった。
……楽しみだわ!
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