第63話 初めての金属調合
「じゃあ、銀とこの宝石で金属の調合をしてみようかね。錬金釜がいるから、デイジーの工房に行こうかね」
そう言うと、アナさんは入口の扉に『アトリエ・デイジーに居ます。御用の際は、そちらにお声がけ下さい』と書かれた、案内プレートを吊り下げて、銀のインゴットを持って、戸締りをしてから場所を移動することにした。
……このプレート、準備いいなあ。
でも、弟子として受け入れてもらえてるようで、何となく心がほっこりした。
そして、道路向かいの反対側にある私のアトリエに帰ってきた。
パン工房は、お昼時ということもあって、品定めをしているお客さんで賑わっている。そして、少し日差しの強い日なので、アイスティーとともにパンを店内で食べている客もいる。
「「デイジー様、アナさんおかえりなさい」」
パン工房のほうで仕事をしていた、ミィナとマーカスが声をかけてくれる。
「「お、デイジーじゃん!久しぶり!」」
お客さんの中に、王都がベヒーモスに襲われた時に奮戦した二人組の冒険者、レティアとマルクが居た。
マルクが愛想良く、よっと手を掲げて挨拶してくる。レティアは相変わらず少しぶっきらぼうで、愛想を振りまく器用さはないみたい。しかも、再会よりもパン選びに忙しいみたい。
「お久しぶりです、レティアさん、マルクさん」
私が挨拶を掛けると、アナさんも会話に交じってきた。
「レティアにマルク。仕事は順調かい?」
あ、アナさんとも知り合いだったのかあ。王都って広いようで狭いのね。
「……んー。受けたい依頼があるんだけど、ちょっとばかし厄介な状態異常攻撃持ってるやつの討伐でさー。手が出せないんだよね」
頭をポリポリと掻きながら、マルクが答える。
「だったら、もう少し待てば、このデイジーと鍛冶師の『あの子』がいいもん作れるかもね」
そう言って、アナさんがマルクに茶目っ気のあるウインクをした。
……ん?また『あの子』?
「おっと、マジ?じゃあ、しばらくはここを拠点にしとくかな。あ、アナさん、俺らの宿屋ココね。なんか朗報あったら連絡ちょうだい。今、金は余裕あるから、いいもんだったら真っ先に声掛けて!」
そう言って、マルクがアナさんに紙切れを手渡すと、レティアの買い物も済んだようで、二人は街の雑踏の中へ消えていった。
「デイジー、待たせたね。じゃあ、調合をしようか」
私は「はい」と答えて錬金工房の入口の鍵を開け、扉を開く。そして、そのままアナさんとふたりで錬金釜の置いてある作業場まで歩いていく。
「デイジーは錬金釜は扱ったことはあるかい?」
アナさんに問いかけられて、私は首を横に振って「ううん」と答えた。
「まず基本的な合金の作り方はね、混ぜる素材を錬金釜の中に入れて、そこにある攪拌用の棒に魔力をうんと注ぎ込むんだ。そうすると、金属が溶けるくらいものすごく熱くなる。そうしたら、違う物質が均等に混ざって、強く結合するように念じるんだよ」
あとこれっと……と言いながら、アナさんが、部屋に無造作に置かれていた分厚い生地で出来たエプロンと分厚い手袋を渡してきた。私はそれらを身につけて、撹拌棒を握りしめて錬金釜の前に立つ。
「じゃあ、精霊王の守護石と銀を釜の中に入れて」
指示されたとおり、そのふたつを錬金釜の中にそっと入れる。
魔力を込めて、うんとうんと熱く……!
そう念じながら暫く攪拌棒を握っていると、釜の中が熱くなって銀が溶け始め、作業室の部屋の空気も暑くなってくる。暑さと緊張でじんわりと私の額が汗ばんでくる。
一緒になあれ、一緒になあれ……。
攪拌棒を掻き回すけれど、【鑑定】の目で見ると、結合度が足りないようだ。
【ガーディニウム】
分類:合金・材料
品質:低品質
詳細:あらゆる守護の力を秘めた合金。守護の力は分量によっての変化はない。だが結合度が低く、守護の力を発揮しきれないだろう。
気持ち:もっとぎゅっと抱きしめあいたい!
……私恋愛の仲人してるのかな……。
ん?でも、『ぎゅっと抱きしめる』なんだよね?そんなイメージで想像したら上手くいくかしら?
……ぎゅっと抱きしめられる……。
残念ながら私は子供で男性とのそんな経験は無いので、お父様にぎゅっとされるイメージを思い出しながら撹拌棒を丁寧に回し続けた。
すると、錬金釜の底の方から強い光が溢れてきた。
「よし、一度で感覚を理解できるなんて、上出来だよ!」
アナさんが、私の背中を労わるようにぽんと叩いた。完成のようだ!
あとは、錬金釜の底の方に栓があるから、インゴット用の型を下に置いてから栓を開ける。すると、銀よりも一段階明るい色でキラキラ輝く液体状の金属が型に流れ出てきた。
「あとは、これをゆっくりと冷やすだけだね!」
アナさんも、できたものの質が長年の経験でわかるようで、満足そうに頷いている。
【ガーディニウム】
分類:合金・材料
品質:最高級
詳細:あらゆる守護の力を秘めた合金。合金化したことで耐腐蝕性を得た。守護の力は合金の使用量によって変化はしない。
気持ち:もうずっと離れない♡
……でもさあ、合金作りって縁結びとかそういうものなの?
初めて合金の調合に成功した私は嬉しかったが、【鑑定】で謎の乙女心だか恋心を見守り続けた私の心は複雑だった。
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