第44話 八歳の誕生日と精霊王様からの贈り物
『しゃべりたくナール』が作れるという話と、『おしゃべりキノコ』と『ドンナ草』が必要ということは、お父様から陛下へと伝えられた。
そんな、国の裏側のゴタゴタに巻き込まれていた頃、私は八歳の誕生日を迎えた。
誕生日の朝、私が朝目覚めると、私の寝ていたベッドの横に一匹の大きな狼?が伏せているのに気がついた。
全身を飾る体毛は白銀、そして瞳はエメラルド。そして、額の中央にも縦長の楕円形のエメラルドの石が飾られている。体長は大人の背丈ほどありそう。
……大きい。でもなぜか怖くない?
「あなたはだあれ?」
恐る恐る声をかけてみる。すると、のそりとその狼?は顔を上げ、伏せからお座りの姿勢に姿勢を正した。
「私は緑の精霊の木の下で生まれ育った、緑の精霊の眷属である聖獣フェンリルです。緑の精霊王様からのご命令を受け、デイジー様の守護をするために遣わされました」
そう言って、ゆっくりと私にこうべを垂れた。
……まずは、お父様に相談よね。こっそり飼えるサイズじゃないわ!
私はフェンリルを連れて屋敷の中をお父様を探して歩く。と、ちょうどお父様が自室から出てくるところだった。
「ええと、デイジー。そのお友達はどうしたんだい?」
お父様は、フェンリルの大きさにたじろいでいる。
すると、フェンリルは、私に告げたことと同じことをお父様に説明した。
「なるほど……、ただ、聖獣であるということは隠したほうがいいかな。『愛し子』ということを詮索されかねないからね」
うーん、とお父様は腕を組んで思案する。
「聖獣フェンリル様、大変恐れ多いことですが、対外的にはデイジーの従魔の狼とさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
お父様は、膝を突いてフェンリルと同じ高さの目線で話しかける。
フェンリルは、ゆっくりと頷いた。
「我が使命は愛し子の守護。そのための方便なら、一向に気にはしない。好きにするがいい」
「ありがとうございます。もう一つ、この国のルールとして、魔獣と従魔を区別するために、従魔には首に従魔の証を付けていただくことになりますが、それもご理解ください。それを身につけることによって、デイジーの側にいていただけるようになりますので」
わかった、というようにフェンリルが頷いた。
「……ところで」
そう言って、ぽんっと音を立てて、フェンリルが子犬の姿に変化した。
「私はこのように小さき姿にもなれるのだが、普段はこの姿の方が都合が良いか?」
うわ、可愛い!私は、うんうん、と大きく頷く。
「……だそうです」
とお父様が笑ってフェンリルに答えた。
「ねえ、あなたには名前はあるの?」
私は、子犬の姿になったフェンリルを抱き上げて聞いてみる。
「いえ、私には名などございません」
ぷるぷると子犬が首を振る。
「うーん、何がいいかしら。緑の精霊の仲間だから……」
そう言って、悩むと、額に飾られた緑色の宝石が葉っぱのように見えた。
「リーフはどう?」
子犬は、そのキラキラした目を瞬かせた後、嬉しそうに私の頰に鼻先を擦り付ける。
決まりね!
私は、素晴らしい誕生日プレゼントをいただいたのだった。
◆
そして、しばらくして『しゃべりたくナール』の素材集めの予定も決定した。
陛下から指示が出て、王宮騎士団から三名、魔導士団から二名の魔術師と一人の治癒師が選出された。もちろんその中にはお父様もいる。彼らは馬に乗って行く。
私とフェンリルの姿に戻ったリーフも一緒に行く。採取してくる品の品質をこの目で確認したいからだ。そして私は馬ではなく、リーフに乗っていくことになった。リーフは、大きさの変化にも対応できる魔道具タイプの従魔の証を首に下げている。そして、私が乗りやすいよう騎乗具も付けられた。
私は魔法も使える錬金術師ということもあって、耐衝撃・耐魔法効果のついた緩めの子供用ローブと、その下に乗馬用の薄手のパンツを履いている。そして、いつもポーションを入れているポシェットを肩から下げる。
初めは私を連れて行くことに渋っていたお父様だったが、リーフが精霊王様から贈られたこともあって、私の身の安全についての悩みが軽減されたのか、無事私も一緒にいけることになったのだ。
『おしゃべりキノコ』は、王都南東のオークの森に。そして、『ドンナ草』は、王都南西のオルケニア草原にあることも調べがつき、目的地も定まった。
一行のリーダーはお父様だ。
「まず、オークの森に行く。複数のオークが現れて混戦になる可能性もあるので気を引き締めて行くように!」
そう、お父様が指示すると、「はっ!」と一行が返事をする。
「出発!」
お父様の号令で、一行はまずオークの森を目指して走り出した。
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