第18話 商談?

「お前も来い、デイジー!明日もう一度掛け合ってみよう!」

 私は明日お父様と一緒に王城へ行くことになった、その当日。


 私はまだ五歳ということで、ドレスではなく少女らしいワンピースを着ていくことになった。

 私のアクアマリンの瞳に合わせて、淡い水色のワンピースだ。

 ケイトが着付けてくれて、髪の毛もサイドを編み込みにして、最後まで三つ編みにした髪をまとめてピンで留めてくれる。

 そして、少し失礼かもしれないが、サンプル用のポーションを入れるために革製のポシェットをかけた。


「はい、可愛く仕上がりましたよ!」


 姿見を見て私も確認。我ながら可愛く仕上げてもらったわ。

 ……今日は頑張ろう!


 ◆


 王城まで到着して、私はお父様と一緒に馬車をおりる。

 お父様に手を引かれて、黙ってあとをついていった。

 すると、ある部屋の扉の前で足を止める。


「これは魔法師団の副師団長殿。こちらです、どうぞ」

 部屋の前に控えていた警備兵が扉を開けてくれる。部屋の中には既に数名椅子に腰かけた人物達がいた。


「ヘンリー、その子供は?」

 カイゼル髭を生やした人物が、訝しげにお父様に尋ねる。


「は、軍務卿。この子が私の次女デイジーで、ポーションの製作者です。本人を連れてきた方が説明もしやすいかと思い、連れてまいりました」

 父が答えると、大人たちはザワザワした。


「お嬢さん、歳はいくつだい?」

 部屋にいた男性の一人が私に尋ねてくる。


「デイジー・フォン・プレスラリア、五歳になります」

 軽くスカートをつまんで、女性の礼であるカーテシーの形をとる。

「これは見かけによらずしっかりした子だ。うちの子も見習わせたいよ。ああ、ご挨拶に対しては名乗り返さないと失礼だ。私はオスカー・フォン・ヴォイルシュ。騎士団長を拝命している」

 問いかけてきた男性が、目を見張り、慌てて名乗りを上げたあと、軍務卿に目配せをする。二人は頷いた。


「二人共、座りなさい」

 軍務卿に促されて、私はお父様と並んで椅子に腰を下ろした。


「発言よろしいでしょうか」

 私は、この席の中でおそらく立場が一番上であろう、軍務卿を真っ直ぐに見て許可を求めた。

「おお、本当にしっかりした子だ。発言構わぬよ」

 私は、コクリと頷いてから、ポシェットに入れてきた、ポーション、ハイポーション、マナポーションの瓶をテーブルの上に置いた。


「先日父から、騎士団の方でも良い品質のポーションが欲しいという意見があがったと、聞き及びました。本日は、ご要望にお応えできるかわかりませんが、ポーションと、ハイポーションも持ってまいりました。こちらも、マナポーションと同じく、性能は通常のものの1.5倍の回復量です」


「「おお……」」

 軍務卿と騎士団長が、驚きと喜びの混じった感嘆の声をあげる。


「これを鑑定にかけさせても良いかね、デイジー嬢」

 軍務卿が私に尋ねたので、はい、と頷いた。


「ハインリヒ、この三本を確認せよ」

「はっ」

 まだ若い、ハインリヒと呼ばれた青年が頭を下げた。おそらく彼も鑑定持ちなのだろう。

 ハインリヒが私がテーブルに置いた三本の瓶を順番に確認していた、その時。


 突然の来客がやって来た。

「「「陛下!」」」

 室内にいたもの全員が席を立つ。私も周りを見倣って立ち上がった。


 陛下、と呼ばれるのは、我が国では国王一人だけだ。

 国王陛下は、美しい癖のある短めのブロンドに、エメラルドの瞳、歳の頃はまだ三十に満たないのではと思うような青年であった。


「ああ、座ってくれて構わない。例の納品の話をしていると聞いてね、興味があって来てみたんだ。同席させてもらうよ……ところで、この顔ぶれなら、君が製作者なのかい?」


「はい。ヘンリー・フォン・プレスラリアが次女、デイジーと申します。ご尊顔を拝見出来たこと光栄に存じます」

 私は、再び淑女の礼をとる。

「非常にしっかりした子だね。うちの同じ年頃の王子なんて家庭教師から逃げ回っているのに」

 笑って満足気に頷き、陛下が腰を下ろす。私もそれに倣って腰を下ろした。


「で、話はどこまで進んでいるんだい?」

 陛下が軍務卿に尋ねた。

「はっ、今、サンプルとしてデイジー嬢から提供いただいたポーションを鑑定させていたところです」

 軍務卿が陛下に頭を軽く下げながら答える。


「それで、結果は?」

「はっ。鑑定にかけましたところ、ポーション、ハイポーション、マナポーションとも高品質で、通常のものの1.5倍の回復量があると判明しました」

 ハインリヒが答えると、「「「それは素晴らしい!」」」と感嘆の声が上がった。


「魔導師団の方では、魔獣討伐の際に危険と判断したとき用に、これを購入したいということだったな」

 軍務卿が父に尋ねると、「はっ」と父と、その上司と思われる人が頷いた。


「そして、騎士団長は、そうであれば、自分たちも高品質のポーション、ハイポーションを購入したいという話だったな」

「はっ」と騎士団長が答える。


「デイジー嬢、これらを定期的に納品することは可能かい?」

 陛下が私に問いかける。

「はい、原料となります薬草類は、全て私が畑を作り育てているものです。ですから、材料が枯渇することはありません。安定して納品できます」


「ほう、畑からか。それ故のこの品質なのかな?」

「はい、良い材料が良い薬になってくれます」

 陛下の問いに、私が答えると、陛下が満足そうに頷いた。


「財務卿、彼女のポーションを買い入れることを認める。後で詳しいことをまとめるように。ああそうだ、性能を十分加味した正当な価格で買うように」

 財務卿と呼ばれた、中年の男性が頭を下げる。


 そして、陛下がまた私に向き直る。

「デイジー、その年頃で品質に求めるその姿勢、向上心は素晴らしい。なにか望みはないか?代金とは別に褒美として、なにか欲しいものはないか?」

 突然欲しいもの、と言われて少し考える。お父様は何を答えるか少しハラハラしているようだ。


「錬金術に関する教本を、私は、初級のものしか持っておりません。もし、褒美としていただけるのであれば、もう少し上級の教本を頂けたら嬉しく思います」

 私の答えに、陛下が満足気に頷く。

「我が国の錬金術は遅れていると言っても過言ではない。だが、このような錬金術師の金の卵がいるとは重畳だ。その願い聞き届けよう、きっとこの国のためにもなることだろう」

 そう言って、陛下は満足そうに笑って部屋を後にされた。


 ◆


 その後、以下のように買取が行われることになった。

 以下を、週にハイポーションを三本、他は各十本ずつ。価格は、性能を上乗せして一般品の三倍となった(一般品→今回の価格)【通貨単位】

 ・ポーション……大銅貨1枚→大銅貨3枚【3,000リーレ】

 ・ハイポーション……大銀貨1枚→大銀貨3枚【300,000リーレ】

 ・マナポーション……大銅貨3枚→大銅貨9枚【9,000リーレ】


 私は、五歳にして週に1,020,000リーレ、金貨1枚と銀貨2枚を受け取ることになった。


 ちなみにわが国の通貨単位と貨幣価値はこういうふうになっている。

 1リーレ=鉄貨1枚

 鉄貨10枚=小銅貨1枚

 小銅貨10枚=銅貨1枚

 銅貨10枚=大銅貨1枚

 大銅貨10枚=銀貨1枚

 銀貨10枚=大銀貨1枚

 大銀貨10枚=金貨1枚

 金貨10枚=大金貨1枚

 大金貨10枚=白金貨1枚

 白金貨10枚=大白金貨1枚


 食事のつかない素泊まりの中程度の宿で大銅貨5枚前後、貴族でない一般役人で年収金貨4枚くらいなのだ。五歳の子供の収入としては結構な金額だということに、びっくりした。

 まあ、高値の理由はハイポーション。その場で切断した腕なら、ハイポーションをかければくっつけてしまうようなものなので、高額で売られているのだ。

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