笑えば憂いは消えていく

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1話 限界逃亡大学生

 高校時代の俺へ


 薄原と天王寺とは縁を切っとけ、ついていけないしみじめになる。

 後、大学一年の正月の家族旅行は必ず一緒に行くか中止にしろ。


 覡奏かんなぎそうより




 俺は簡潔に書かれた手紙に容赦なく火をつけた。

 六月の過ごしやすい暖かさの中、俺を含めた三人の男は微妙な顔つきで何か書かれた手紙を燃やしていた。

 俺らは昨晩酔った勢いで高校時代の自分への手紙を書き、我に返った今それを処分しているのだ。


「酔いって怖いな、なんだよ自分への手紙って。小学生の道徳の授業かよ」


「小学生のは俺らみたいな憂鬱な過去へじゃなくて光溢れる未来への手紙だぞ。それよりも覡、お前は何書いたんだ?」


 身長180程の金髪で目以外100点の男、向井望むかいのぞむが、そう聞いてくる。


「まぁ、端的に言えば家族を救えだな」


 俺がそう言うと、向井は聞くんじゃなかったと苦い顔をして俺から目を逸らすと、俺と向井ともに手紙を燃やしていた一人である、黒髪で背の高いこれまた目以外レベルの高い男の鹿島洋斗かじまようとに同じ質問を投げかけた。


「俺か?俺は……まぁ他人のちゃんと向き合えって感じだな、お前ら二人ほどじゃないが俺も高校時代に後悔が無いわけじゃないからな」

 鹿島は無気力さを感じさせる目を少し細めて言うと、くわえていた煙草に火をつけた。


「それで、向井は何を書いたんだ?俺と鹿島が言ったんだ、お前も言わなきゃ不公平だろ」


「まぁそうだな。俺は女からは逃げろ拒絶しろ関わるなって書いたぜ。まぁ理由は言う必要もないだろ」


 そういうと金髪高身長イケメンは淀んだ目を更に淀ませて、煙草を吸いだした。

 二人に倣って俺も煙草に火をつけた。

 目の前の燃えカスを見て、まるで後悔を焼き尽くせたかのようだと感じたが『実際は何も変わってないし、なんならもうどうすることもできないものだ』と頭の中のもう一人の俺が冷たく言い放ってきた。


 うるさいヤツだ、ほんと。


 *


 何が悲しくて男三人で同居なんぞしてるのか。

 それには、俺と向井の山より高く谷より深く、そのくせ割とどうでもいい理由がある。ちなみに鹿島はオマケだ。


 今年の一月に俺、覡奏は家族と死別した。家族仲は普通に良かった為とても精神的に参ってしまい、持ち直す為に新生活をする計画を建てていたところ、高校時代からの仲である向井がその話に乗ってきたのだ。


 向井は高校時代の女絡みのいざこざにより家族と絶縁しており万年金欠だった為、俺と共同生活をして出費を抑える理由だったらしい。


 ではオマケの鹿島は何故いるのか。

 本人曰く、「面白そうだから」らしい。


 鹿島とは今の大学の受験の際に仲良くなったので、大体一年程の付き合いがあったのだが、面白そうだからで一人暮らしをやめて男三人の共同生活に身を投じる言い出した時には流石に正気を疑った。


 精神衛生と金と何となく。


 この三つを理由に男三人の共同生活は始まったのだ。




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