宣告

ぞっとする汗が、背中を……いや身体中をつたい落ちていった。

そしてネネルは続けた。

「言うなればラッシュ、お主の力の根源そのものが奴に吸収されてしまったのじゃ。黒衣の馬鹿力、重傷を負っても瞬く間に回復する力、それら全て……」

ヴェールの奴に俺が出くわしてしまったのがそもそもの始まりだった。そこに何らかの因果が働いていたのかも知れない。俺がナウヴェルたちを追ってエズモールに来たことだ。

「あやつは復活に関わることを何か話してなかったか?」

「そういや話してくれてたな……コンジャなんとかっつーの」

「それだ!コンジャンクション!」と、ルースがぱちんと手を叩く。

二つの太陽、そして一つの月が一列に重なる。その時に放たれる太陽の細い光が、まずガーナザリウスの復活には必要だったらしい。

「だが、それだけでは不十分。ただの動死体にすぎぬ……」

「そう、同族であるラッシュ。キミの精神のリンク……つまり接近と同調が必要だったのさ。あとは命名とか諸々の儀式を経て、ようやく復活へと行き着いたハズ」

「うむ、しかしヴェールは最後の儀式を忘れておったのじゃ、つまり……」

「俺と戦う。ってことか」

うむ。とネネルとズパは同時にうなづいた。


「全てはヴェールの術中に、いやシナリオ通りにラッシュがはまってしまったのじゃ……そしてその弊害が今のお主の姿」

うん、ネネルの解説でバカな俺でもよーやく分かった気がするけど、この生命力とやらは回復はしないのか?


「いつものラッシュの力を十とすれば、いまは一だな。さらにはこの根源力、いくら休息しようが山ほど食事をしようが回復することは……」


不可能。

その言葉にネネルが悔しげにぎゅっと拳を握り締める。


「でも、どうにかなるだろ? こんなのかすり傷のうちにも入らねえや。俺からしてみれば全然ガマンできるし!」

ベッドから無理やり起きあがろうとした俺の身体を、ネネルはぴっと手で制した。

「無理をすれば、それは傷の悪化につながる。とはいえ斬られた傷が無かったのは不幸中の幸いじゃが、今のお主は……まともに呼吸をすることも、立って歩くことすらかなり至難なはず」


……言われちまった。確かにそうだ。足を踏み締めるだけでも歯を食いしばりたくなるような激痛。鼻が血で詰まって、胸も苦しくて。

だが、俺はこんなことで一生を寝たきりにしておきたくはないんだ!


「治療できる泉がここにあると聞いたんだ、だからこそ俺は……」

「うーん……それだけど、恐らく今は枯れちゃってると思うな。おまけにラッシュ、キミの身体は普通の人間とかとは全然違うもん。あれって人間のちょっとしたすり傷切り傷くらいにしか効果ないしさ」

ずいぶんと見てきたようなこと話してくれるな、ズパさんよ。

って、もしかして、お前……

なんかこの前見たよりも身体がちょっと大きくなってるし、肌の色つやもいいし……


「ゴメンね、ボクの身体の組成に最適な水質だったからさ、その……湧き出てる分全部……」


思わず、ルースとネネルの三人で思いっきりため息ついてしまった。

ンで、もう打つ手は無いってことなのか……? 冗談じゃない、俺にはまだまだこれからやることがいっぱいあるっていうのに!

マトモに身体すら動かせないのかよ……ごめんだ、そんなこと。


ネネルはなにか思い詰めた顔で、窓の向こうの曇り空をじっと見つめていた。

「ネネル姫、僕も手伝いたい。なにか特効薬とかはないのかな?」

ふう、とまたネネルの白いため息が部屋に舞った。

「無いと言えばない。しかしあると言えばある、それは……」

「ちょ、ちょっと待ってよ姫さま、アレだけはやめといた方がいいですぜ! 第一に……」

「しかしズパ。お前がアレをやれば、すなわち自身の死へと繋がる。断じてそれは私が認めん、やるのならば妾が!」

「姫さまの方がヤバいってば!」

「ズパ、妾に逆らう気か!」


いったい何を口論してるんだ! いい加減俺にも内容話せ!

「ああ……知りたいか?」

当たり前だろうが。俺の身体……いや俺の今後の運命だし!


そうか……と彼女は軽く沈黙し、また曇り空を見つめた。

まるで、みんなの胸の内みたいな空の色かもな。


「つまりは私の魂を削って、お主に与えるのじゃ」

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