継承 その2
ナウヴェルのやつ、戦いの後ずっと姿を消していたんだが一体何やってたんだ? 道すがらガンデに訊ねると「師匠が、継承に立ち会ってもらいたいとのことです」だとか。
「弟子である私ももちろんですが、ラッシュさんにはお世話になったからって。本来なら禁止されてることなんです」
継承……ああ、ラウリスタの名前のことか。きちんとした武具を造るためには名前とか継がなきゃならねえんだっけ。なんかいろいろ面倒だな。
なぁんてぶつくさ話してたら、ガンデもくすくすと笑ってた。
「けど、名前だけじゃないんですよラウリスタとは」
詳しいことはナウヴェル自ら話す……そんな話をしているうちに着いた場所は街外れ。確かにナウヴェルほどの体格でなきゃ生活ができないほどの巨大なレンガ作りの家が、目の前にどんと現れた。もちろんここがあいつの新しい工房なんだとか。
全てがサイ族の寸法に合わせられた巨大なドアをよっこらせと開けると、一瞬にして汗が流れ落ちるほどの熱い空気が俺を包んだ。
生活感ゼロの殺風景な居間を抜けた先に案内されると、そこが師匠の部屋……とはいっても恒例のハンマーの音なんか聞こえてこない。逆に足元にはおびただしい血を拭き取った跡が続いてるし!
なんなんだよオイ、あいつ部屋の奥で死んでるんじゃねえのか?
「安心しろ、私のではない」
突然、背後からナウヴェルが話しかけてきたから思わず悲鳴を上げそうになっちまった。しかし誰の血だこれ、ガンデのでもねえし。
「前ラウリスタのものだ。とはいってもお前は奴の顔すら見てないまま……だったな」
「ンで、そいつを殺して継承……とかか?」
「そんな簡単ではない」
相変わらず言葉少なな物言いだ。まあこれは後から聞いた話だが、サイ族ってのは総じてこういう簡潔にして直接的な会話しかしないらしいけどな。
工房の奥にはめらめらと炎をたたえている炉と、側には……なんか小さな桶が置いてあった。
中を覗きこむと、赤々と……ではなく、真っ黒な熱い融けた鉄だった。
「それがラウリスタだ」とナウヴェルが言うものの、全くピンと来ない。
「えっと……私から説明します。つまりラウリスタとは……」
創り出す、己の腕そのものを指す。
つまりそれは、鐡の腕という意味……そう弟子は分かりやすく解説してくれたはいいが、やっぱり分からんし。
「んーと、つまりはこの融けた鉄をあんたの腕にでも塗りたくるってことか?」
「ええ、それがラウリスタ継承の儀なのです」
なるほど……ってえええええ!? バカいうな! 火傷どころじゃねえぞこれ。これって触れちまったら瞬時に皮も肉も骨までも煙になっちまうくらいの熱さだろうが! なに考えてるんだ!
「だからお前を呼んだんだ。一番信頼できる仲間を」
と、あいつは岩のような手を俺の肩に優しく置いた。
「もし、この熱さに私が耐えきれなかったときは……」
ぎゅっと、その手のひらに力がこめられた。
「数多のラウリスタの魂が認めてくれなかった結果だ。その時はこの私の命を断て。お前のその手で」
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