コンジャンクション その2
「ヴェール……!?」そいつの名前を聞いたとき、無意識に俺の手は立てかけてあった斧に伸びていた……が。
なんだろう、こいつには戦う気迫そのものが感じられてこない。要はアレだ。女子供とか、はてはトガリみたいな、無抵抗な連中そのものって感じ。
たしかヴェールって行方不明になったって聞いたような。でもって敵国マシャンヴァルでお偉いさんになってるってゲイルのクソ野郎が以前言ってたし。
「見えるのか、俺のことが」そういやこいつ、両目を包帯で塞いでるんだが……つまりは盲目なのか?
「そう、生まれつきね。けど大丈夫。人間とは違うもん」
なるほどな。俺たち獣人は嗅覚とか聴覚とか、どっちかっていうと視覚よりそっちのほうが鋭敏だ。とはいえ目だって悪いわけじゃない。人間より遥かに感度はいい。特に暗い場所なんかな。まあそれはいいとして。
「獣人ならばわかるでしょ。空気の流れとかで道筋なんて把握できちゃうし。それに君の身体についた様々な匂い……そう、兄さんの懐かしい匂いがね」
唯一無理な点は、字が読めないところかな。って笑いながらヴェールのやつは答えてくれた。聞いてないところまで話してくれるところはあのルースにそっくりかも知れない。結構饒舌だ。
「で、マシャンヴァルに寝返ったお偉いさんが一体俺になんの用だ?」
目を見せてくれないから一体何を考えているんだか全然見当つかねえ。それにだんだん頭痛も激しくなってきたし。
「君に会わせたい人がいるんだ。だから僕の方から呼びに来た」
「ゲイルの野郎か……?」
ヴェールは首を左右に振った。あんな小物になんて会いたくないでしょ。って。どうやらその気持ちは俺と合致しているようだ。
「その頭痛の原因であるお方にね」
「なん……だと!?」
さっきっから、いやこの坑道の奥へと歩みを進めるたびに頭の中に頭痛とともに響いてきた声。それとこいつになんの関係が?
「コンジャンクションって知ってる? いや……知るわけないか」
知らねえという間もなくこいつが代弁してくれた。コンジャ……なんて初めて聞く名前だし。
すると、ヴェールは天井をすっと指差し、こう話した。
「太陽と月だけじゃない。この世界の空には何千もの大小様々な星が取り囲んでいるんだ。それらのうち幾つかが、数十年……いや、数百年に一度だけ同じ角度で一列に並ぶ。それをコンジャンクションって僕らマシャンヴァルは呼んでいるのさ」
うん。いつものことだが全然分からねえ。
「別に理解してくれなくっても構わないさ。これらは全てマシャンヴァルにあったアーカイブに載っていたことだからね。つまりはこれを知っているのは、世界でもほんの一部。占星術師か……それと僕ぐらいかも」
いちいち自慢げに語っている割には、ルースのようにムカつく感じがこいつには見えてこない。
「だから、そのコンニャクなんとかが俺と一体どういう関係があるんだ?」
ふふっとヴェールは吹き出していた。やっぱりルースの弟だからだろうか、笑い方といい、仕草からなにから妙に似てるんだよな。
「その日だけにしか蘇らせることのできない人がいるんだ」だとあいつは言った。
そいつに会わせたいってことか……だがそうはいってもまだまだ答えにすら辿り着いていない。だからつい俺も語気を荒げちまった。
いい加減教えろ! ってな。
「始祖」
ビビリもせずにあいつは言った。
シソ……ってなんだそれ?
「黒衣の始祖さ。つまりはラッシュ。君のおじいさんのおじいさんの……ずっとずっとご先祖だよ」
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