アンティータの戦士 その2

独特の言葉遣いが気になるけど、これはこいつ……つまりアンティータ族特有の口の形が影響しているんだそうだ。

よく見てみると、こいつの口はめちゃくちゃ細くて長い。花の蜜を吸う昆虫の口みたいだ。でもってそれ以上に舌がひょろ長い。

喋るときにはこの舌がチョロチョロ出てくるもんだから、結果としてヌって言ってしまうんだとか。まあ理由さえ分かればさして気にすることもなくなったし。

「成人の儀を終えて、お下がりのパパの武器を新調してもらうためにここに来たんだヌ。でもなんか街の人の様子がおかしくって」そう言ってチャチャは自分の武器を見せてくれた。

いや、こいつのは……武器というか、肩まで覆う巨大な腕鎧だ。それに手指を模した長く鋭い刃の爪が並んでいる。それに関節部分は鋭くエッジが伸びていて、そう、これそのものが立派な武器になっていたんだ。

「故郷ではこれで穴掘ったりもするんだヌ。いまみんなが来た抜け穴も僕が掘ったんだヌ。そしたらここ、閉鎖された坑道があったわけだヌ」

なるほどな、だから人の気配が全然しなかったというわけか。とりあえずここなら安全かも知れないヌ……って俺もこいつの口癖がうつっちまった!

んで、やっぱりここで繋がるのは「ラウリスタ」。そうだ、チャチャも同様にまだ見ぬあいつに会うためにこのエズモールに来たわけなんだ。

「チャチャ、お前はなにか知ってるのか?」

マティエの問いかけに、ぼーっとした目でチャチャは答えた。

「僕も詳しくは知らないんだヌ。けど唯一分かることがあるんだヌ。それは……」

と、言い終える前にチャチャの腹がぐごおおお……とすごい音を立てた。

「何か食べるものあるかヌ? 持ち込んできたご飯みんな食べ尽くしちゃってもう三日間水しか飲んでないんだヌ」言った途端、ぺたんと地面に座り込んじまった……なんなんだコイツは。

まあいい、幸いにも馬車から出る時に持ってきたザックの中にシィレで買い込んできた食い物がたくさんあるし。まずはこいつのメシからだ。

「うわあ! すごい美味そうな食事なんだヌ! 感謝だヌ!」

だがあいつは与えたパンや干し肉をかき集めるやいなや、どこからともなく取り出した大きな皿の上に全てぶち撒けちまった。何やってんだコイツ?

さらに、ご自慢の長く鋭い爪で手当たり次第に切り刻み、汲んできた水と共にぐちゃぐちゃに混ぜて……

うん、言っちゃあなんだが、以前チビに食わせた押し麦と乳のあのゲロ臭いアレだ。

瞬く間に、渾然としたスープとも言い難い泥みてえな色の粥がかんせした。

「できただヌ。いただきますだヌ!」

ちゅぽっと、細長い口を粥に突っ込んで……


ぐじゅるじゅぼぼぼぼじゅじゅう〜


なんか吸ってる! しかもやべえ音立ててるし!

俺もそうだが、隣にいたマティエもチビも……うん、気持ち悪そうな顔してる。


ずずずじゅるるじゅじゅっぢゅ〜


やべえ……聞いてるこっちの方も気分悪くなってきた。


じゅごじゅごごごご……ぶじゅるるるる。

「あー! 美味しかったんだヌ。ごちそうさまだヌ!」

「そ、そうか……アンティータは口がほとんど開かないから、ああやってドロドロにしたものしか口に……うぷっ」


マティエ、それを先に言えっつーの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る