もう一人のガンデ
で、意識が薄れかけて目が覚めたというわけだ。
「なるほどね。なんかウンウン寝ながら唸ってたのはそういう意味が……」俺はそんなにうなされてたのか。
ジールが去った後、俺は窓を開けて冷たい風を浴びていた。
まだ鼻水は止まらないが、熱はもう出ていない……と思う。
風邪ひいたのも生まれて初めてだけど、こんな悪夢を見たのも初めてだ。あれは一体なんだったんだ……
「ふふん、黒衣の力が少しずつ目覚めてきたみたいだね」
耳元で突然聞いた声が! この声……
「ズァ……ピャさん!?」思いっきり名前を噛んじまった。そう、ズパさんの声だ!
窓辺の縁に現れたその姿はというと……すっげえ小さい。俺の手のひらにすっぽり収まるほどの大きさだ。それに妙に細っこい。いや……痩せこけていると言った方が正しいかもしれない。
「ああ、さすがのボクでもダジュレイの浄化にはそれ相応の力を使ってしまったんだ。元の姿に戻るまでにはもう少し時間がかかるかもね」
つまりズパさんは、自分の身を削って穢れた大地をきれいにしていった。しかしその範囲があまりにもデカすぎたってワケだ。
なんか、悪いことしちゃったみたいだな……じゃねえ、黒衣の力って一体なんなんだ?
「黒衣……つまり、マシャンヴァルの武人の頂点に位置する存在なんだけどね。とはいってもただバカみたいに強いだけでもなかったんだ。精神感応にも秀でていたし、予知や未来の啓示も受けていたらしいしね」
ズパさんが分かる? と念を押してくれたのはいいが、後半全く言ってることが意味不明だった。精神感応ってなんのことだ?
「つまり……だ。キミは以前にも薬で過去の再現とかを体感したハズなんだけど」
そうだ、確か教会でそれやったことがある! オグードとかいうクソ不味い酒を飲まされたっけ。
「うん、それとこの前ボクと深層部で対決した時だね」
なるほどね、こうして肉体ではなく頭の中をかき回されたことにより、俺に秘められていた黒衣の能力がようやく引き出された……ってことか。
「先見予知……もしくはキミがこれから向かわなくてはいけない試練をその夢は示していたのさ。親方さんはなんて言ってたんだい?」
「息子を探してもらいたい……とか話してたな」
前にジャノが俺に言ってたか。ガンデって兄貴がいるって。
どうしてあの場にはいなかったのかは分からないが、まあとにかくそいつを見つけて……ンでもってどーすんだ?
ズパさんは一言「面白くなりそうだね」と言葉を残して、また風の中に消えていった。
……………………
………………
…………
翌日。
「んあ、ガンデ兄貴のこと? ちょっと前に鍛冶屋になりたいって出ていったんだ」
焼きたてのパンを口の中いっぱいに頬張りっていたジャノは、さらっと兄貴のことを話してくれた。
「鍛冶屋……?」
「うん、どっかの隊商が水をくれってうちに来たことあってさ、その時に外の世界のことをいろいろ聞いたんだ。それ以来ガンデ兄貴はここを出て勉強したいって言い出してさ」
「でも、なんで鍛冶屋になんてなりたいって決めてたんだ?」
だってそうだろ? どっかの国で兵に就きたいとか畑を作りたいとか、選択肢なんてそれこそ指じゃ数えきれないほどたくさん存在するってのに、なぜよりによって鍛冶屋になんか?
「そん中にすっげえおっきな身体のおっちゃんがいたんだ。それが刀鍛冶やってて、兄貴その人の話を一生懸命に聞いてたの」
え!?
身体がデカくて刀鍛冶って、それ……もしかして?
「ワグ……なんとかって名前だったよ。サイとかいう種族かな」
マジかよ、そいつ……
俺とナウヴェルがずっと探していた、ワグネル・ラウリスタだ!!!
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