夢じゃない夢を

「俺が本来望んでいた……‬ってことか?」

「そう。ラッシュが望んでいたことが夢に。というか熱でうなされている時ってそういう変な夢見るって聞いたことあるし。まあ大半は飛び起きたくなるような悪夢らしいけどね」

ジールが、汗びっしょりの俺の額をタオルで拭ってくれた。冷たくて気持ちいい。

そして俺は、つい今さっきまで見ていた夢の中身をこいつに話した。

ジェッサと親方という両親に囲まれて朝飯を食っている。きっと側から見ると不思議な、けど自分にとっては温かな夢。


で、親方は俺に何をお願いしたのかっていうと、だ。

飯を食い終わった後に、妙に神妙な面持ちで俺に告げたんだ……‬「家を出ていっちまった息子を探してくれねえか?」と。

俺はそう言われて変な声が出ちまった。確かジャノが言ってたっけか。確か名前がガンデ。そう。親方と同じ名前だ。

親方……‬いや、ここでは親父か。その名前を聞いて、大きなため息と共に苦笑いしてた。

「ああ、このバカがよりにもよって俺と同じ名前を付けちまいやがった」って。

「バカとはなんだ。私はな……‬ガンデ、お前と同じくらい大切にしたい思いでこの名前を付けたんだ」

「それが嫌で家出しちまったんだろうが!」いいのか悪いのか、途端に夫婦喧嘩が勃発した。

止めようとした俺のことを、涼しい顔をしたジャノが制してこう言ってくれた。「大丈夫だって、一日一回はこれやってンだもん。俺だってもう慣れっこだよ」

それに、口論だけで決して手を出すようなことはしない。さっさと終わってその後はいつも通り仲のいい二人に戻るんだって。


「理想の夫婦像だね。どっかで聞いたことがある。ケンカするほど仲がいいっていうのをね」

俺の隣に寝転んでジールは教えてくれた。ちょっと息が酒臭い。飲んだ帰りに立ち寄ってくれたのか?


さて、すぐに夫婦喧嘩は済んで本題に戻った。

「ラッシュ、俺はな……‬ガンデ、いや息子を同じくらい鍛え上げて、いつかはお前と肩を並べるくらいの強い男にしたかったんだ」

「それが、なぜ家出を……‬?」

母親のジェッサが、琥珀色に澄んだコーヒーを一口すする。「あの子の夢は違ってたのさ」

「夢……‬?」

「そう、ガンデ兄貴って、いつかは鍛冶屋になりたかったんだって」

鍛冶屋……? つまりは、刀とか鍛えるアレのことか。

親方は無言でうなづき、話を続けた。

「あいつは身体の頑強さは俺譲りだったがな。いかんせん俺とはどうも話が合わなかった。俺にまでヒトゴロシの仕事を押し付けるのか、ってな。だがこの世に生まれた以上は仕方がないんだ。俺もジェッサもそれだけで糧を得て生きてきたんだしな。それのお前だってそうだろ」


もちろん俺は言い返せなかった。だが……‬鍛冶屋っていっても、それも間接的に戦いに、つまりヒトゴロシに関与しているんじゃないか?

「ああ、そういうこった。俺もその言葉をそのまま返したさ」まるで親方は俺の胸の内を全部分かっているかのようだった。

「結局その程度の考えしかできないんだな、父さんも母さんも……‬って言葉を残して、ガンデは夜に家を出ていったんだ」


なるほどな、二人してどうにも止めることすらできなかったってことか。

ンで、俺に探してこさせて来いってことなのか。

「ああ、お前ならな。‬きっとあいつを説得し……‬」


ちょっと待った。さっきから聞いてて妙に自分勝手な見解だな。

それに親父……‬いや親方。俺の知ってるガンデ親方はこれほどまでに腑抜けた性格じゃなかったはずだ!

俺になんてわざわざお願いするタマじゃねえってことも。だから俺はブチ切れたさ。

この、親方のようで親方じゃない存在に。


「親方……‬子供できてからずいぶんと角が取れちまったな」

俺はこの腑抜けた親父を一発殴りたい気持ちを抑えて、静かにそう言ってやった。

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