男たちの温泉騒動
この温泉とやらは大戦の只中にルッツェルン公の爺さんのそのまた爺さんが地面から掘り当てたって話だ。なんでも夢の中でそのご先祖が現れて、癒しの湯を出せと告げられたんだとか。
「実際に効能もあるんですよ。矢とか刀傷を受けた人がこのお湯に浸かることによって早く回復したんだって。ぷはあ〜」
そう。ルースいわく、それが発端でここスーレイは発展を遂げたそうだ。温泉の街として。多大の財を成して。
とかなんとか言ってるうちに、ルースはぶくぶくと水中に沈んで行っちまった。大丈夫かあいつ?
「すっげえな、ラッシュって身体に傷が全然ないのかよ!」
俺の身体を一目見るなりイーグが驚いてた。あいつの身体はといえば……確かに。肩とか胸に結構な数の傷跡がついている。
「それがラッシュさんの強さの証明なんですね」アスティも感心してた。
トガリはというと、向かいの岩場でチビと一緒に身体を洗いっこしている。そういやトガリも風呂してるとこ見たことなかったな。もう何年も一緒に生活してるっていうのに。
故郷のアラハスじゃ蒸し風呂が基本だとかって言ってたし。
「なあ、どうやったらこんな身体になれるんだ?」
やけにくすぐったいなと思ったら、フィンのやつ、俺の腹筋を指で押しながら確かめてた。
「まず、持って生まれた種族からして違うからね。フィン」アスティの言う通りかも知れねえ。親方いわく「使える」のは俺ら犬系とか……そう、あのゲイルのような獅子とか虎。猪もな。
逆に小さかったり華奢な種族は前衛には不向きだ。素早さを活かした職に就いてればいいんだが、戦場の真っ只中じゃそうはいかねえし。
「それでもどうにかならないのかな」
「やれるかも知れないが、お前らにはキツすぎるかもな」
親方の訓練やってみるか? たぶん半日で血吐くぞ。とフィンに忠告したら「やっぱいいや」だと。まあそれでいいのかも……な。
しかし、こういう温泉っていうのも結構いいもんだな。なによりぐっと手足伸ばせて浸かれるのが最高だ。
ひと月に一回くらいは入ってやってもいいかも。
「ぶはあ!」と、さっきまで俺の隣でずっと潜水状態だったルースが飛び上がって出てきた。
「瞑想してたんだ。それに息を止めてどこまで我慢できるかもね」
別に構わねーけどここでやるのは危険だぞ……と言おうとしたんだがやめておいた。なんか妙に元気なんだよな。これもズパさんが治してくれたからなんだろうか。
なんだかんだ言って俺も結構疲れ溜まってたのかも知れないな。
やべえ、なんかだんだん、ねむく……ゴポォ……
ーちょ! ラッシュ沈んだまま寝てる!
ー違う、溺れてるんだこいつ! 早く引き上げないと!
ー無理!重すぎ! つーか息してねーし!
ーラッシュ! ラッシュ目を覚まして!
実に散々な旅だったわけで。
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