ガールズ・トーク2
話はちょっとだけさかのぼる。
「ジールさんってさあ、ラッシュのこと結構好きじゃないの?」
思わずその言葉にむせそうになってしまった。アラハスの特製コーヒーを吹き出しそうになるほどに。
「なななんでまたいったいそんなことを今⁉︎」
歓迎の宴で深酒して潰れて、みんな揃って目が覚めたのは太陽が真上に差しかかった頃。
そこにラッシュとルースはいなかった。特にラッシュは酒飲めるわけでもなし、それに老人のように早起きだから、本来ならとっくに起きているはずだし。
「あのお二人さんはね、なんか急ぎの用があるとかで夜明け前にここを発っていきましたよ」
あっさりとトガリの母親は言ってのけた。
アラハスの住人は早起きだ。
しかも残されたジール一行の醜態に別に怒るわけでも動ずるわけでもなく、静かに優しくその事を告げてくれた。
「なんで……教えてくれなかったのさ」
いちばん焦っていたのは誰でもない。ジールだった。
ウェーブのかかった長い髪をわしゃわしゃと乱雑にかき上げ、ずっと「なんでよ、もう」と、ちょっと悔しそうな独り言すら口にしていた。
ようやく落ち着きを取り戻し、酔い覚ましの濃いコーヒーをすすっていた、そんな最中のパチャの言葉が、思いきり刺さってきた。
「すっごいあたふたしてたしね。好きでもなければあんなに……ってウワァ!」
パチャの丸く尖った口が強引に掴まれた。
「好きとかそーゆーのは全然関係ないから。ただほっとけないやつなのよ、あいつは」
まだ酒が残ってるのだろうか、どことなくジールの目が座っていた。
「ほ、ほっとへなひ?」
「うん……あいつはね、戦いの場となれば誰よりも頭は切れるんだけど、それ以外がね」
「分かります、ラッシュ様って結構寂しがり屋ですものね」
二人の会話が楽しそうだったのか、ニコニコ顔でロレンタが間に入ってきた。
「まあね、寂しがり屋というか、心のよりどころをずっと持っていなかったから、かな?」
「ふぅん……ラッシュってあんまりそうには見えないけどね」
「パチャはまだあいつと会ってそれほど経ってないからね、そこまで見えてないのよ」
「いや、それってつまりジールさんがラッシュのことを思って……ってウワァ!」
それ以上口にするな、とジールの細長い瞳が睨みつける。
「そ、そういえばパチャさんって、なんでフィンさんと結婚されたんですか?」
「え、ああ……その、なんかいろいろあって、成り行きでつい」
ロレンタに急に話をふられ、今度はパチャが戸惑いを隠せずにいた。
「んふふ、パチャはそれ話せないから私から……ってウワァ!」
「ジールさん! それ禁句! 禁句っスから!」
今度はパチャの鋭い眼光が彼女に突き刺さった。
「……つまり、ラッシュさんもフィンさんも、なんか放っておくことができない性格なんですよね。それに……」
「それに……なんだい、シスター?」
笑顔のまま、ロレンタは軽く首を左右にふった。
「大好きな人がいるって、いいことですよね……思っていることでその人が輝いて見えてきますし」
「うーん、なんかよくわかんねーし」
「いいんですよ、それで」
そして夜、ジール一行もスーレイに向けて砂馬を駆り立てていった。
彼女らがジャノ達と会うのは、もうちょっとあとの話。
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