ラッシュ、覚醒する その2
場所すらよく分からない、薄暗い石造りの牢に閉じ込められて……けどそれほど時間は経っていなかったようには思う。
さて、こっからどうしようか。柵を見るからに、鉄製ではあるが結構錆び付いている。普通の人間には無理だろうが、俺だったら簡単にブチ折ることができるだろう。
あとは……うん。どうしよう。これからの計画。
「流れ者の獣人を捕らえたと報告があったのだが?」
「ええ、われわれを見るなり急に抵抗をやめて……なんでも生贄に対する暴動を止めるべく住民を片っぱしから殴りつけて……いかがなさいますか?」
薄暗闇の奥の方で、さっき俺を捕まえた憲兵らしき若い声、それと親方に近いくらいのおっさんの会話が聞こえた。
「あちゃー。やっぱりラッシュか」
もう一人……わかる、ルースだ。
「急いで釈放しろ。大丈夫だ、責任は全て私が持つ」
なんかよく分からない押し問答がちょっと続いたと思ったら、今度は一目散にチビとルースが駆けつけてきた。
「大丈夫だったラッシュ!? ケガは……してるワケないよね」
「おとうたん!」チビが開けられた扉から思いっきり飛び込んできやがった。案の定土砂降りのようにわんわん泣いてるし。
……………………
………………
…………
「で、お前みたいな領主さんともあろうものが、よりによって生贄を差し出すことを認めちまったワケか」
泣き疲れて眠ったチビを膝の上に乗せ、俺はこのスーレイのお偉いさんの話を、怒りを抑えながら聞いていた。
「ラッシュ落ち着いて。確かにこの時代に生贄だなんて正直言語道断さ。けど実行しないがためにはこの地の土壌汚染は止められないと予言の書に脅されていたんだ……ルッツェル公の気持ちも汲んでやってくれないか?」
領主って言うからもっとクソ威張ってるジジイなのかなと思っていたんだが……・
俺が一発怒鳴ったらその場で死んじゃいそうなほどの気の小さな、ルースが何か言うたびに俺にすまないとひたすら謝り続けている優しそうなおっさんだと言うことはとりあえず分かった。
「それに僕のみた予言の書は、どうも……」とルースは突然言葉を止めた。何なんだいったい。
「あ、いや。そこで僕の提案なんだけど、ラッシュにも手伝ってもらいたいんだ」
なんだろう、いま一瞬ルースが不敵な笑みを見せたように見えたんだが。
すると突然、ルッツェル公がパチン、と指を大きく鳴らした。
と同時に俺たちのいる応接室の奥のドアから、白と黒の服に身を包んだ人間の女たちが五人。足音すらなく入ってきた。
何なんだこいつら、さっきの憲兵の仲間か?
「分かったよねラッシュ。あいつがどんな生贄を欲しているかってことを」
「あ、ああ……俺たち獣人の女性と、人間の子供だろ?」
なんだろう、今ここにいるルースがなんかヤバいくらい楽しそうな感じに見えている。
「つまり……だ。僕らに残された方法は一つ! ぷぷっ」
おい、なに企んでるんだルース。そんなに笑っちゃうくらいヤバいことなのか?
「君に女の子になってもらう!」
え……
「いま来てもらったのは、我がルッツェル家に代々支えているメイドたちだ。今から君を……その、女装させて」
オイこらジジイ! てめえも一枚噛んでやがったのか!!
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