ラッシュ、覚醒する その1

結構空気が冷えてるから、大暴れした俺にはちょうど心地いい。南の島で大立ち回りして以来だろうか。

俺の背後には、叩きのめされたスーレイの連中が山と積み上げられていた。もちろん種族問わずだ。

「お、お前助けに来たんじゃねえのか……」

足元で鼻血をだらだら流した猫の同胞が、喉から絞り出すような声で俺にそう吐きかけてきた。

「気に入らねーからブチのめしただけだ」

ああそうさ。理由はそれしかない。


さて……と。小休止がてら近くの噴水広場で水をがぶ飲みしていると、今度は反対側の道から騒ぎ声と叫び声が入り混じった集団が近づいてきた。

目を凝らすと、スーレイの人間たちが女を。それも獣人の女を担ぎ上げている。

俺と同じ長い鼻面……つまりは犬系だ。まばゆい金色の髪を振り乱しながら助けてとひたすら叫んでいた。

ってことは……あいつがさっき言ってた生贄って奴か!?


俺が連中の前に立ちはだかるやいなや、殺気だった人間どもが燃え盛るたいまつを振りかざして襲いかかってきたので、いつも通り紙一重で交わしつつ殴り倒した。

「その女を放してもらおうか?」

「ふざけるな! これはスーレイの先住神に捧げる大事な女だ!」

「バカ言うンじゃねえ! 同じスーレイの住人だろ? 生贄に差し出すなんておかしいと思わねえのか!」

まあ、こんな話し合いで解決するわけでもなく……っていうか俺の手の方が、いち早く奴らを叩きのめしていたわけで。

……………………

………………

…………

「人間たちが突然私の家に乗り込んできたんです。お前はこれからスーレイの神の捧げ物になるんだ……って、それしか言わなくて」

寝巻き姿で泣きじゃくる彼女に、俺はそっと貰い物の上着をかぶせてやった。

こういう場合、なんて言葉をかけてあげたらいいのか……こんな状況自体初めてだから分からねーんだよな。

彼女が話すことには、どうやらここの神様は獣人の女と人間の子供を生贄に求めているらしい。ますます厄介なことになってきた……やっぱりここのお偉いさんの家に直接行くしかないのか。

度重なる恐怖でまだ足元のおぼつかない彼女を家まで送り届けて行った直後だった。


「流れ者が暴れているという通報があったのだが……貴様のことか?」

目と目が合った瞬間、俺の鼻先に針のような細いサーベルの剣先が突きつけられた。

馬に乗った若い人間の男たちが俺の周りを取り囲んでいる。仕立てたばかりの埃一つ付いてない黒地の制服を着ているってことは、つまりは……

「お前ら領主に仕えてる者か? なら手っ取り早い」

そうだ、あえてこいつらに捕まることで、領主に近づくことができれば話しは早く済む。

そのままお前たちの神様に会えれば、もうこっちのもんだ。

「ここの領主と話がしたい。案内してく「無駄だ」」

……え、どういうこと?

「住民に危害を及ぼす存在は早々に収監、処刑せよとの命令が下っているのだ。観念しろ!」

周りにいた制服の人間たちが、俺の腕に太い鎖を結びつけてきた。


マジかよ……俺、なんか悪いことしたか?

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