宴のあと
砂馬っていうのはほんと疲れ知らずだな。と俺はこいつの大きな背に揺られながら、つくづく感心していた。
こいつを俺たちに譲ってくれたトガリの親父が話すことには、この砂馬っていうのはかなり希少性の高い馬らしく、アラハスのマーケットでもめったに手に入らないんだそうだ。
それもそのはず。足裏の幅が広いから砂に沈まないで、この砂漠ではずっと安定して走ることができるし、おまけに身体中の毛が長いから、砂漠の夜にも、さらにはこれから俺たちの向かう……そう、スーレイでも寒さに凍えることなく済むって話だ。
おまけに今まで俺たちが乗っていた馬より大きな身体だからスタミナも機動力も段違いときやがる。だからとにかく珍重されている馬なんだ。
んで、そんな貴重なものをなぜ譲ってくれたのかってことだが……話は半日前にさかのぼる。
……………………
………………
…………
あの料理対決のあと、改めてトガリ大臣率いる俺たちの隊を迎えるパーティが開催された。
まあ、料理はさっきのに比べてちょっとは劣るが、今度は酒も込みだし、みんな変な催眠から解けたしで大盛り上がりになった。
ほろ酔い加減のサパルジェ長老が言うことには、ゆくゆくはトガリを次期アラハス総代に据えたいって話もこっそり聞いてしまったしな……なぜか俺だけにこっそりと。
「ドゥガーリには、人の心を変え、動かす力があるのじゃ。私はそれを信じている」そんな事まで俺に話していたけど……あいつそんな能力なんてあったのか。知らんけど。
さて……と。宴もたけなわの最中、酒がダメな俺は周りに気付かれぬようにこっそり、寝ぼけまなこのチビを抱いて出口の方へ向かった。
「行くの?」隣の席にいたルースが怪訝そうに聞いた。
「とりあえず準備だけな。みんなが寝入ったら発つぞ」
そうだ。もちろんこいつも連れてかなきゃな。
事前にルースから聞いてはいたが、ここからスーレイまではこの馬で休まず走って数日はたっぷりかかる距離だとか。
しかもずっと北だ。俺の嫌いな雪まで降ってる可能性もあるらしいし……さてどうしたものか。
「お二方、スーレイに行かれるのですな」
宵闇の影から、突然何者かが話しかけてきた。
え、ヤバい。何者かに先回りされてる!?
「その声……トガリのお父さん!?」
夜目を凝らして見つめると、なるほど……トガリよりちょっと大きな身体に口ひげ。あの料理対決で散々威張り散らしてたトガリの親父がそこにいた。
「息子から聞きました、先にスーレイに行きたい要件があるとか」
トガリが……あいつ一体どこで聞いたんだ?
「いや、僕があいつに話したんだ」と、ルースは申し訳なさそうに俺に告げた。
しかし……なんでわざわざトガリに?
「あいつ……僕とラッシュの会話をこっそり聞いてたらしいんだよね。あとで理由聞かれて、仕方なく」
ただその目的が、スーレイの主である奴の……ズァンパトゥとの対話であることは教えてないらしい。まあそうだよな。怪物と対話してリオネングの腐った大地が元通りになるってことをトガリにどう説明すればいいのやら。そんなのルースだって、俺だって無理だ。
ただあいつに盗み聞きされたのは誤算だったな、帰った日にゃ真っ先にぶん殴ってやる。
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