小さな村の大きな戦い その4
「いいかげん黙れ! このクソモグラ!」
チビを除く俺の周りの連中がみんな驚いてた。でもってモグラ共はみんな驚いた顔をして静まり返っていたし。
唯一ビビってなかったのは、俺の足元にいたチビ一人だけ。そうだな、慣れてるからかな。
「ごちゃごちゃうるせえんだ! 出したメシが一つだろうがなんだろうが関係ねえだろうが!」
悪い。こんなにイライラと怒りがおさまらなかったのは久しぶりだ。いや数年ぶりか?
「いいかクソモグラ! 戦いを挑んできたのはお前らだろうが! それに対してグダグダ文句言うのはお門違いだろ! 出された以上屁理屈言わずにさっさといただきますしやがれ! それが礼儀ってモンだ!」
ああ、こんだけ怒鳴ってもまだ怒りがおさまらない。
「トガリはお前たちの家族だろ!? コイツのもてなしになんでいちいち文句叩くんだ! てめーらの都合で縁切ったりするなんてもってのほかだとは思わねーのか!」
「し、しかしな……こここれはアラハスを出た者に対する我々の儀礼であって……」
俺の気迫にみんなが怯えるなか、一人歩み出てきた白髪頭が。コイツ長老だっけか?
「おうよクソジジイ! いいか、俺はトガリのダチだ。コイツのいいとこも悪いとこも全部、あいつのクソ親の次に知ってるつもりだ。だから分かるんだ! あいつがどんな気持ちでこの勝負に挑んだかってな。トガリは少しでも親に報いたいんだ、そして超えてみたいんだ! 口ベタだから絶対に言えないと思うけどな。だから俺が代わりに言ってやる!」
勢いで俺はトガリの頭を鷲掴みにし、まるで赤ちゃんを見せるように大きく掲げた。
「トガリはな、これから世界一の料理人になるやつだ!」
「ちょ、ちょっとラッシュ! そんなの無理!」
トガリが空中で足をバタバタさせながら言ってきたが、俺はそんなこと関係ない。
「こいつは最高の料理人で俺にとって最高のダチだ! 文句があるなら全員かかって来い! まとめて相手してやる!」
「ドゥガーリ……」
ふと、俺の声をさえぎるかのように、またモグラ共の中から一人が立ち上がった。
手には例のパンを持って、メガネの奥から大粒の涙を流しながら。
「いま、いま食べてようやく分かったわ……あなたの言いたいことが」
そう、立ち上がったのはトガリの母ちゃんだ。
少しづつちぎったパンの中からたちのぼる湯気。その中には熱々の赤いシチューが詰められていた。
それに触発されたかのように、一人、またひとりとパンの蓋をあける。
特製のトマトの煮込まれた香りが、瞬く間にあたり一面にただよってきた。
「……そうだよ母さん。そうやって食べるんだ。器のパンをシチューに浸してね」
俺の元から離れたトガリが、小走りで両親のところに向かった。
「今ぼくのいるリオネングはひどい飢饉なんだ。食べるものがことごとく傷んできちゃって、残されたものはほんのわずか。けどそれもだいぶ味が落ちてきてしまって……それをかき集めて作ったのがこのパンシチューなんだ」
口にしたモグラ共がざわめき立つ。
「けどね、パンだけじゃダメ。それにシチューだけでもダメなんだ。ほらね、なにか味が足りないでしょ? けど二つを合わせればきっと美味しいって思うはず」
そうしてトガリは、笑顔で俺に向き直った。
「片方だけじゃダメなんだ……まだまだ僕たちは。だからこそ力を合わせて最高の料理を作れるまでにした。今はこれが精一杯のもてなし」
そんな最高のパンシチューを口にしたモグラの中から、すすり泣く声が聞こえてきた。
「勝ち負けなんか僕はまったく考えてない。今はただ、アラハスのみんなに分かってもらいたかった……一人だけでは未熟な僕たちのことをね」
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