小さな村の大きな戦い その3

デザートが出てしばらくしたらトガリとイーグがいなくなった。そうだ、今度はこっちの番なんだった。

しかし、圧倒的だったな……モグラ連中の出す料理は。まあ祝いの席に出す料理だから超豪華だってのは分かるけど、その内容が凄まじすぎた。長老の交代の儀式の時でしか出さないってきたもんだ。

だからこそ逆に心配なんだ。トガリは一品で勝負すると話していた。しかもモグラたちからは材料の提供を一切受けずに、もってきた食材だけで挑むと豪語していたし。

勝算あるのか……? いやそれ以前に、俺の方だって一刻も早くスーレイに行かなきゃならねーんだし。こんなトコで足止め食らってるわけにはいかないんだ。

「おとうたん、お腹いっぱい?」

俺の膝の上にいるチビが聞いてきた。こいつもすごい食いっぷりだったしな。

「まだまだ食えるぞ。そっちはどうだ?」

と聞いたら答え代わりにゲフゥと大きなげっぷで返してきた。かわいいもんだな。


「たしかに今まで食ったことないメシだらけで圧倒されたし全部平らげちゃったけど、あまり心には残らなかったな……」

「そうだよね、パチャのとこで食ったお祝いの料理の方がずっと良かったっていうか」

トカゲと人間の年の差夫婦がふと、そんな会話をしたのが耳に入った。

なるほど……な。それをチビに聞いてみても、全部おいしかったとしか言わなかったし。

「結局のところ優等生すぎた……って感じですね。後からこんなこと言うのもちょっと気が引けますが」


ロレンタが追い討ちをかけるようにそう話した。うん。まさにそれかも知れない。

あくまで「勝負のために贅を尽くしただけ」の中身。「俺たちを歓迎して、心を込めて作ってくれたのか?」要はそれに尽きる。

たしかに美味かったし、味の勢いに任せて食ってしまったが、それだけなんだよな……


あれこれどうでもいい考えをめぐらせていたら、トガリたちのいる厨房の方から香ばしい香りが漂ってきた。これはイーグのパンだな。つまりはパン料理……まさかそんな。それじゃトガリの出る幕無いし。


耳を澄ますと、イーグとジールの会話が入ってきた。

「ルースがいなくなった……?」

「ああ、いちおう例のスパイスだけは置いてあったんだけどな」

「どうしたんだろう……まさか捕らわれたとか、かな」

「その前もあるしな。ついでだから俺っちはちょっとあいつを探してみる。トガリにはこのこと言うなよ」


え、ルースが行方不明……!? 何か事件に巻き込まれたのか?

いや、俺も動いた方がいいのか……くそっ。こんな時に!

そんな苛立ちを抑えるべきか迷ってる矢先のことだった。ついに……トガリの作った料理が運ばれてきたんだ。

従者みたいなモグラたちが石のテーブルに乗せて運んできたのは、まだ熱く湯気のたちのぼる丸いパン。

それだけ……ああ、それが全てだった。


そして当然、疑問の声だって上がる。

ー聞いた話だと、このパン一品だけだとか?


ーふざけるな! 我々があれだけ用意したにもかかわらずたったこれだけとは!


ードゥガーリはわしらをバカにしているのか!?


ーこんなもの食うに値しない!


徐々に怒りと疑念の声が大きくなっていく。いや当然と言えば当然かも知れねーけどな。

「ドゥガーリ、お前は我々をもてなす心を持ち合わせてはいないのか!」

一人の放ったその声に、たちまち周りが賛同していき、いつしか大広間を埋め尽くすほどの罵声にまで発展していった。

「なんでだよ……僕らアラハスは穏和な一族じゃなかったのかい? なんで……なんで分かってくれないんだよ……」

声に押しつぶされ、今にもトガリは泣きそうだった。

もちろん俺だってそうだ。この一品に込められた想いを食わずにダメにする気かこいつら!

頭にきた……本来ならコイツら全員ぶん殴りたい気持ちだが、そんなことしたらトガリの一族皆殺しにもなりかねないし。


「いいかげん黙れ! このクソモグラ!」


……悪い、久々にキレちまった。

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