ジールの告白

朝が来た。

家の前には二台の大きな馬車に革の水袋と、それに交換するための食料やら物資やらいろいろと詰め込まれている。

これもトガリが居てくれたからこそだ。アラハスに不足しているもの……そう、あいつらは砂漠の民だから、やはり水が必要不可欠だもんな。

「どうしても砂漠だから移動速度は落ちちゃうしね。早くても片道一週間はかかると思ったほうがいい」

トガリはそう俺に話してくれた。マジかよそれほどかかるとは。俺の身体が鈍っちまいそうだ。

「分かっているとは思うけど、ラッシュは僕たちの要だ。こうやってたくさんの金品や食料を積んでいるのだから、狙ってくる盗賊もそれなりにいるのだし。護衛は任せたよ」

なんかルースもすっげえ偉そうに俺に言ってくるし。つーか後で聞いた話だけど、ルースは今回、大臣補佐って役職に任命されたそうだ。つまりはトガリの次に偉いやつ。

「んあ、俺っちも大臣補佐って言われたぞ、だからラッシュは俺の命令きちんと聞かなきゃダメだからな」

なんてイーグも割り込んで言ってきやがったから、いつもどおり殴って黙らせた。


しかし、こりゃ道中は超がつくほど退屈になりそうだな……敵襲がそこそこあればいいんだけど、そんな不謹慎なことは言えないし。

おおかた力仕事は終わり、あとはルースの打ち合わせだけか、ってことで俺は部屋の中で一人皿に盛られていたイーグのパンをかじっていた。

硬くって、塩気が全然なくって、うん。はっきりいってクソ不味い。これがイーグの作ったパンなのかって思えるほどに。

けど理由はわかる。材料すらまともに手に入らない今なんだ。これが精一杯なんだって。

放っておけば、リオネングだけじゃなくこれが全世界にも広まっていくんだ。

俺は別にこの国以外思い入れはないからどうだっていい、けどそれじゃダメなんだって周りから言われてきた。

一日少しだけでもいいから、世界を学ぼうよ……って。これがルースの口癖。

そのためには自分も時間は惜しまないって言ってはくれてたものの、やっぱりあいつの身の置所を知ってしまって以来、気が引けてしまうんだよな。


「なんだ、ここにいたんだ」

その声に振り向くと、ジールがぽつんとドアの前に立っていた。

「どこ探してもいなかったからさ、また散歩でもしているのかなって」

「お前の方こそ、ケガの具合はどうなんだ?」

そう、遺跡であの化け物と戦ったとき、彼女もひどいケガを負っていた。それを無理してまで孤島へ俺を助けに行ってくれたから、余計心配だ。

「大丈夫。あんなの負傷のうちに入らないし。っていうか……」

ジールは俺の隣に音もなく腰掛けると、俺の食いかけのパンをひとかけ口にした。

「ずっと心配してくれてたんだ、なんか意外」

「当たり前だろうが、仲間なんだし」

俺のその言葉に、くすっと微笑を見せた。

「仲間だって思ってくれてるんだ、それも意外」

そうか? と聞き返す間もなく、ジールは続けた。

「私ね、ラッシュのことを初めて聞いたとき、もっとヤバい奴なんじゃなかいって思ってたんだ。そばに近寄れないほどに」

うーん、確かに噂話だけで判断すれば俺はめちゃくちゃ危険な奴かもしれない。実際戦っている最中はそんな感じだし。

「おやっさんに言われたんだ、あなたと初めて会うときにね……あいつの心の支えになってくれないかって」

「親方がか?」

そう俺に話すジールの横顔は、少し寂しそうに見えた。

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