わだかまり
いつもの裏庭でルースと話すことにした。
しかし……というか、やはりこんな場所にもダジュレイの障気の影響は出ていた。
もう春だというのに足元の芝は黒く枯れ果て、訓練に使ったあの大木は葉を茂らすことなく、痩せた枝が力なく伸びているだけだった。
このままじゃ、こいつも死んでしまうだろうな。
「僕も、その……話したいことがあってね」
いつにもなくルースは精彩を欠いていた。つまりは元気が全然ないって奴だ。
まずは俺からだ。
「アラハスに行ったら、俺とチビは先にスーレイに行こうと思う」
「え、なんでまた?」
こいつが驚くのは分かってた。ある意味単独行動だからな。
さて……ここからは、と。
「こ、この痩せた土地の元凶がそこにあると突き止めたんだ……」
「どういうこと? そんなこと誰から聞いたのさ。まだ僕らはなにも分からないっていうのに」
ここで一発殴って黙らせるのがいつものやり方なのだが……理由、うん。追求されるとは思っていたし。
だから俺なりに精一杯の嘘で対抗することとした。
正直なところ嘘をつくのは嫌いだ、すごく苦手だ。オマケに親友のルースを騙すってことが、もう。
つまりはこういうことだ。
ダジュレイを倒してしばらく後、バクアからの帰路の最中、チビが突然何かに取り憑かれたかのように俺に話しかけてきた。
誰だかって? ンなこと知るか。
そいつはチビの身体を借りて俺だけに告げてきたんだ。
「これからお前の故郷が災厄に見舞われるであろう」と。
俺はそんなこと当初は全然信用してなかった。チビが寝言でも言ったんじゃないかって。
けど、この状況を見てそれは本当のことだと身をもって知らされた。
ダジュレイの血がリオネングを冒しているんだって。
そして、この大地をまた元通りにするのには……
「スーレイの地に住むズァンパトゥを訪ねろ。と言われたんだ」
「ズァパト……ッ?」うん。ルース思いっきり噛んだ。
ともかく、その舌を噛んでしまいそうな奴はスーレイにいる。なんでもダジュレイとは対の関係だとか。
そいつを説き伏せれば、リオネングの大地を治すことができるだろうと。
「そっか……だから先にスーレイに行きたい、と」
そういうことだ。絶対にネネル姫がアドバイスしてくれたなんて言えるワケないしな。これはイーグと俺だけの秘密みてーなもんだし。
「うん……なんかイマイチ釈然としないけど、ラッシュだけにそれを伝えたっていうのも、きっと君が……あ、いや」
ルースは口ごもった。なんなんだ?
「僕も一緒に連れて行ってもらえないかな?」
「え、そりゃちょっと……」
「僕にも知る権利はある。護衛とまではムリだけどね」
「で、できればチビと俺だけで……」
「ラッシュ、僕の話を聞いて」
あいつの真剣な眼差しに、俺の息が止まった。
なんでここまで知りたいんだ。これでネネルのことがバレたりでもしたら……
……いや、逆にそこで知ってもらうのもいいかも知れないな。
「前にも話したよね、僕の弟がマシャンヴァルにいるって。だからそのズンバッ……トに聞いてみたいんだ。あの国のことを」
また噛んだし。
「お前の身体は大丈夫なのか?」
「ああ、最近発作は出ていないから安心して」
それも俺の心配の種だった……まあ、それならいいかな?
「ラッシュ、君と僕たちとはなにがあろうと仲間だ。僕は君を裏切らない。だから……」
冷たい風がふいに俺とルースの間を吹き抜けていった。
黒くなった枯れ草が千切れ、つむじ風のように舞っている。
「君もチビちゃんがどんな存在であろうと、仲間であることには変わりな……ってぐはっ!」
なんか言ってる意味がよく分からなかったから、とりあえず殴って黙らせた。
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