キケンなお願い
腹いっぱい食ったあとにロゥリィに呼ばれた先は……
藁葺きの屋根の、明かりすら設けられてない、塩の匂いが染みついた不気味な暗い部屋だった。
うん、こりゃマズい予感的中。
「ああ、最初に言っておくよ。そ・こ・ら・辺・に関しては心配しないでくれ。ルースにもきっちり念を押されているしね」
「え、理事長……俺は別に」
「ロゥリィでいいよ。かしこまった物言いはここでは不用さ」
彼女が魚の油の入ったランプに火を点ける。
照らし出されたそこは……え、またしても祭壇!?
豪華な飾りのついた椅子が上座に置いてあり、そこから眼前に広がるモザイク仕立ての床。
なんなんだよ……まさかここにも変なバケモノが祀られてるンじゃねえだろうな。
「単刀直入に言わせてもらうよ。ラッシュ……君に神・様・になってもらいたい」
「え……カミサマ!?」
そういうと、ロゥリィの細い目の奥が、なんかキラリと光った感じがした。
つーかもう完全に相談に乗ってくれる口ぶりなんだが。
「実は漁業権の問題でね。ここから船でしばらく行った先にちょっとした大きい島があるんだ。そこの島民と漁を巡ってトラブルを起こしてしまって……」
「で、それとカミサマとどういった関係があるんだ?」
ロゥリィは俺にニヤリと笑顔を向けてきた……が、なんかもう裏がありまくりな気しかしねえ。要はヤバげな笑みだ。
「まだそこは地図にすら載ってない島なんだ。要するに未開拓。我々にとっては名もなき島さ……でもってそこで崇められている神像が」
ロゥリィは、ピッと人差し指を俺に向けた。
「まさにラッシュ! キミと瓜二つだったのさ!」
ま、マジかよ……つまり俺には、そこに住む連中の神様になってくれとでもいうのか!?
と思った矢先、今度は抱きついてきたし!
「ね? ここに来たのも運命的だったのさ。その島の漁業権は僕らがずっと手に入れたかったんだ。頼むよぜひ!」
つーか抱きつくのやめろオイ。お前男女一体どっちなんだよ! じゃない俺にそんな趣味なんかないぞ!
「ほら、僕ってこんな華奢な体つきだからね。この街に来た時はいつも女と間違えられてきたのさ……だからもうヤケになって服装も喋り方も女性っぽくしたら、一気に人気出ちゃって、その結果、今はこの地位さ」
え、女になると偉くなれるってか?
「ずっと通していたら、もう女性でい続ける方のが僕のスタイルに合ってきたのさ。ふふ」
「そ、そうなのか……よく分からねーけど」
ちなみにこのことを知っているのは、ルースと港の奴らのごく一部らしい。だからこのことは口外しないでくれと念を押された……あ、ルースからもな。
さてさて、その島……なんだが、神様の姿がどうも例・の・聖・女・デ・ィ・ナ・レ・とかなり酷似しているんだそうだ。
んでもって俺はそこで神様として振舞い、バクアの漁船に立ち入ることを許可してもらいたいんだとか。
なんでもこの島の近辺で獲れる魚介類はすごい美味いんだとか。
でも……ロゥリィの願いは受けるとして、なんか不公平じゃねえか?
「キミの息子さんとジール君たちは僕らが面倒診させてもらうよ」だと。なるほど交換条件か。
……………………
………………
…………
「ごめんラッシュ! 彼女には昔からいろいろあった仲で……」
俺たちにあてがわれた旅館に入ると、ルースが平謝りしてきた。まあしょうがないよな。仲間のためだし。
それに島へはルースとタージアも同行してくれることとなった。うん。俺口下手だし、ルースなら口八丁でいろいろ乗り切ってくれるだろう。
それに……よくよく考えたら、船に乗って海に出るってすげえ幸運なことじゃないかな。ちょっとした冒険ってところか。
生まれて初めての航海、そして新天地。
ロゥリィのとこに行くまでは不安しかなかったけど、今は逆に眠れないくらいワクワクが止まらない。
……と、まあはやる気持ちで海へと出た俺だったが、やっぱり運命ってのは一筋縄でいかせてくれないんだよな。
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