俺とエッザールとアスティと 4

最後にちょっとえげつないことしちゃったけど、半日あまりで街の人たちの目を覚まさせることができた。

もちろんまだ外は寒い。だからみんなコートとかマントを大量に羽織ってどうにか動けるようになった……って感じかな。

後から聞いた話だけど、この状態がずっと続けば本当に死んでしまうかも知れなかったんだって。


つまりは……



「牧師アスティ殿に旅人フィン殿。一族を代表して礼を言わせてもらう」

エッザールが話してた大老様。つまりはこの街でいちばんえらい人が、僕とアスティさんのところにわざわざ出てきて、頭を下げてきた。


もう一夜にして英雄みたいな扱いだった……アスティさんは聖母ディナレの布教に来たからわかるとして、なんか僕まで……ちょっと恥ずかしい。


「なにを言ってるんだフィン。君たちは一族絶滅の危機から救ってくれたんだ。英雄どころじゃない。まさにこの地に降りてきた神さ!」

エッザールの家に招かれた僕たちは、これでもかってほどの歓迎をされた。食べきれないほどの料理に、アスティさんはお酒たくさん注がれてべろんべろんになっちゃったし……いいのかな牧師さん。


そうだ、よく見るとエッザールの一族……つまりはトカゲなんだけど、男女で結構違いがあって面白い。

男性は頭の上にトサカ状の毛があったり、はたまたアゴヒゲがあるのに対し、女性にはそれが無い。けど女性の方は肌が滑らかで、光を受けるとキラキラ緑や青に反射してとっても素敵。男性は体色がそこそこあるけど、みんなごつい鱗の皮膚なんだけどね。


「まあ、ありがとうねフィン君。綺麗って言ってくれて」食事をよそってくれたお姉さんに綺麗って声をかけたら、照れながら早足でどっか行っちゃった。あとでエッザールに聞いたら、その人が妹なんだとか。ちなみにもう結婚してるけどね。

宴とはいってもみんなの身体が温まらないから、とっても静かに進んでて……本来なら吟遊詩人も招いてすごい賑やかなんだって。


「ところで、フィン君とかいったね。君はどういった目的でここまで来たんだね?」グレーの鋭く長い髭を口元の左右から生やした男の人が僕に問いかけてきた。

以前エッザールに言われたっけ。「僕に弟子入りして修行に来たんだって答えるのがいい。間違えても君の父親を殺したいためだなんて言うんじゃないよ」。


そう、この一族はとにかく血の絆を大切にする。冗談でも父を殺めるなんてことを口にでもしたら……うん、分かる。それいっちゃいけないことくらいは俺にだって。


で、エッザールに弟子入りしてることを話すと宴は大盛り上がりに!

……何故か家族にもみくちゃにされてるのは俺じゃなく、エッザールなんだけどね。弟子が付いたってことは戦士として、一人前の剣士としての証なんだとか。

でも、世の中やっぱり上手くいかないようで。


「なあ、兄貴仕込みの腕がどれくらいのものなのか……あたしと戦ってくれる? 人間さん」

俺の前に突然、どっかりあぐらをかいてきた人。


それは、ぬらりとした肌がエメラルドグリーンに輝く女の人……いや、トカゲ族の女性だった。

「パチャカルーヤ! お前……」

「いいじゃん兄貴。聞くところによるとリオネングで数千の敵とやりあったそうじゃない。そんな兄貴の大事なお弟子さんなら……」

パチャカルーヤって名前の女性は、腰に下げていた短剣を俺に差し出した。

鞘から柄まで色とりどりの宝石が埋め込まれている。俺からしてみても、これ相当価値あるモンだって分かるし!


「あたしの婿になれる資格、めっちゃありそうだしね」


え、なにこれ、もしかして求婚されてる………!?

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