「番外編」俺とエッザールとアスティと。

あんなに積もっていた雪が徐々に消えて行って、でもってかれこれ2日は走ったころだと思う。

それほどまでに寒いのが苦手だったのか、エッザールは馬車の奥で身体を丸くした状態で、おまけにピクリとも動かない状態。

このまま二度と動かないんじゃないかって思えるくらい。息もしてないように感じる、なんか怖い。

「心配しなくっても大丈夫だよ。時々寝返りうってるから」


なぜアスティさんが同行してるかっていうと、これはエッザールからのお願いだったみたいだ。

いや、それより前に俺とエッザールが何でまたこうやって馬車に乗っているかっていうと、まずはエッザールの種族。龍鱗族りゅうりんぞくっていうのがエッザールの一族の正式な種族名なんだ。でもめんどくさいからラッシュとかはトカゲって呼んでたけど。


そしてこのトカゲ族は、とにかく寒いのに弱いらしい。どんなふうに弱いのかっていうと、もう頭の回転からして遅くなってきちゃうんだとか。その状態がずっと続いてしまうと、死に繋がってしまうくらい。それほどまでにトカゲ族にとって寒さは危険なんだって。

そう、だからリオネングにいることはエッザールにとって危険だったんだ。


俺がいたリオネングは結構四季の寒暖差が激しい……らしい。夏はめっちゃ暑く、冬はこうして雪が降るくらい寒い。

雪で遊ぶのは楽しいけど、雪かきとか屋根に積もった雪を下ろしたりとかそういう仕事が俺は好きになれないんだよね。

エッザールのやつは先日の討伐の一件でラッシュと仲良くはなれたけど、あいにく時期が悪かった。だからしばらくの間故郷に帰るってことになったんだ。

で、俺はというと。いまいちラッシュの教え方が身につかなかったわけで。

だってあいつ力任せに斧をぶん回すだけだし。要はバカ力だけのスタイルっていうか。俺にはそういう戦い方は向いていなかったんだ。

だからエッザールにお願いして、オーソドックスな剣と盾を使った戦い方を習っていたわけ。

「人には得手不得手はあるからね、ラッシュさんの場合しょうがないとしか言えないでしょう。私でよければ」と快く受けてくれた。


うん、やっぱりいい感じ。

エッザールの方も楽しく教えてくれてるし、俺にはこっちの方が性に合ってるようだ。

パワーだけで押すラッシュとは違って、盾を駆使しながら手数で攻めるエッザール。まさに正反対。

そんな師匠ともいうべき存在がしばらく家を出ちゃうっていうんだから、もう俺は焦った。

けど……この凍てつくようなリオネングの寒さはそれ以上にエッザールには厳しかったみたいだ。

馬車に荷物を積もうとしても、いつもの半分くらいの速度で、もうすっげえゆっくり動いてるんだ。

だけどもそれが精いっぱいらしく、仕方ないから俺が手伝ってようやく準備が終わって。

でもって……見送るだけだったんだけどな。調子悪そうなあいつの様子を見て、一緒に行っても構わないかな、って聞いてみたんだ。

滅茶苦茶嬉しそうな顔して「ほ、本当ですか……なら……大歓迎……です」と今にも死にそうなくらいのゆったりしたしゃべり口で応えてくれた。


チビとラッシュには悪いけど、でもってクソ親父にも。

悪いけど、俺も違う国を見てみたくなったから。


それでもってアスティさんはというと……

街を出る直前に合流したんだ。なんでもエッザールのいる国はほとんどの人がディナレ教だっていうんで、布教のためにもぜひ、ってお願いされたんだって。

でもそれでよかった。旅は二人より三人の方が楽しくなるもんね。

………………

…………

……

アスティさんいわく「彼らはこうやって深く眠り続けることで新陳代謝を低くしてるんだ」ってさ。

俺が寒い日に起きたくないのと一緒なのかな。ずっと毛布にくるまったまま寝続けたい気分の。

どうも馬の走りが遅くなってきたなと思ったら、足場が砂まじりになってきていた。

そういえばエッザールが言ってたっけ、住んでる国は砂漠の手前にあるって。

そこをさらに進むと、トガリのいるアラハスに着くんだって。


あとひと眠りしたら到着だよって、アスティさんは地図を横目で見ながら話してくれた。

俺はと言えば、奥の荷台でコーヒーを沸かしながら、夜食用に黒パンとトガリ特性の肉団子で一口サイズのサンドイッチをせっせと作ることに。


なんか今夜は眠りたくないな。またアスティさんからいろんな話聞きたいし。

星しか見えない夜空を見渡しながら、馬車は砂地をまた進んでいった。

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