元近衛騎士団長

「ラッシュも知っていると思うんだけど、刀工であるワグネル・ラウリスタって人は出身からなにから全く謎なんだ。そしてマティエのその槍が示す通り、年齢すらも謎に包まれている」

「だけど、なんでその槍が魔獣を倒せるって分かったんだ? 一回しか現れたことがないのに」


以前エッザールが話してたな、このワグネルってジジイは気が向かないと武器を作ることがないって。俺も大金チラつかせた挙句に作ってくれたんだし。まあその結果出来上がったのが今こうして俺が愛用している大斧なわけだが。


俺のその疑問にマティエは一言「ケガの功名。とでも言えばいいのか……思い出せたんだ。秘蹟を受けたときにな」

そうか!!! こいつもディナレ教会で秘蹟を受けてたんだ。そしてパデイラの魔獣と対峙した記憶をよみがえらせて……

「あのとき、祖父はこの槍を携えてパデイラへ調査に向かったんだ。そして魔獣と戦って命を落とした……だがその闘志は無駄ではなかったんだ。この槍は傷一つなく残されていて、さらに……」


「バカ犬、この前俺が話したこともう忘れちまったのか?」

寝ぐせでぼさぼさになった頭をボリボリかき乱しながら、あの男……ラザトがようやく起きてきた。

「え、ンなこと話したっけか?」

だからお前はバカなんだよ、とラザトはいつもの言葉を吐き捨てる。

「記録士が残してたんだ。その時の惨状を一つ残さずにな。そのおかげでそいつは精神を病んで自分で首をつって死にやがったが」


「ふう……その口汚い物言い、昔と全くお変わりありませんね。ラザト……元近衛師団長」


えっマジとジールは目をまん丸くして驚いていた……が、城や軍の中身を知らない俺にとっては全然ピンとこなかった。


「あーあ、ついに言っちゃったかマティエちゃん。ここではできるだけ秘密にしとこうかと思ったのに」

おいおい、ラザトもラザトだ。コノエシダンチョーってなんかめっちゃ階級高そうな名前してるのに、見てくれは完全に飲んだくれのジジイだぞ。なにが秘密だ。だから王子もこいつのことに詳しかったのか。


「近衛師団長とは言ってもリオネングのじゃない。マティエちゃんがこの前まで属してたマシューネ国の方だ。だからここの連中にはイマイチなじみが薄いかも知れねえが、うちの王なら顔なじみさ」

もちろん王子もな。まだチビと同じ年齢の頃は、こっちに来るたびにからかって遊んでやったっけな。なんてラザトは子供みたいにけたけた笑って話してくれた。

なるほどな。とりあえず本題に戻ってくれ。


「簡単に話すとな、マティエの爺さん……オルザンはこの槍で奴に致命傷を負わせていた。左胸にそいつを突き刺してな。だが相手は俺たちと同じ体内の構造をしてなかったんだ」

「左胸……っていうと、つまり心臓がなかったってことか?」

「ご名答。つまりあの魔獣は最初っから心の臓が存在していないか、もしくは別の場所に急所があった……と考えられる。が、戦っている最中にそんなこと考えられるハズもねえ。仕留めたと思って気を抜いたのが運の尽きさ」

最後の一言にマティエはキッと歯噛みしていた。そうだな、最愛の爺さんを悪く言われちゃ気分悪くするのも当然かもな。


「また近いうちにパデイラに調査へ向かいたいんだ。私の過去とも向き合いたいし。それにはワグネルの武器を持っているラッシュ、それにエッザールも同行してもらいたい……お願いできるだろうか?」

「え……」

「もちろん無理にとは言わない。だがあいつとラッシュがいれば心強いことは言うまでもないしな」


「っと、エッザールのことなんだが……」

「そういえば彼だけいないね。どっか出かけてるの?」周りを見回して怪訝そうにルースが尋ねた。


「ああ、あいつ、寒いの苦手だからっていうんで一時的にてめえの国へ帰ったぞ。ご丁寧に俺のガキまで連れて行っちまいやがった」


「な……」

ラザトの憮然とした言葉に、ルースもマティエも開いた口がふさがらなかった。

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