不器用同士

ということで、今日はまずタージアに優しく接してみることにした。

「リンゴむいたぞ、食うか?」

ジールはお出かけ中。一人で黙々と朝メシのサラダを食べてるあいつに、リンゴを差し出してやった。

一瞬ビクッと驚いた後「え、あ、ありがとうございます……」と小さな声で言った。

「ラッシュさん、優しいんですね……」

イーグいわく、俺の場合は優しさに欠けるところがあるんだとか。

別にそんなことしなくたって今まで生きてこられたけどな、とは思うがそれが大きな間違いなんだと。


「でもな、優しくしすぎてもいけない。男っていうのはそこのさじ加減が難しいんだよな」

イーグの言うことは勉強になるとはいえ、俺が実践するには難しいんだよな……


「あ、あの、ラッシュさん……できたら私の隣に座ってもらえますか?」

タージアに言われるなり隣の席へ。

やっぱり……腰掛けた途端寄りかかってきたし。こいつ一体なんなんだ?

「正面にいると、緊張しちゃって……」

俺もどうやって返せばいいかわからぬまま、ずっと彼女がリンゴを食うのを見ていた。

「私のこと、まだお話ししてなかったですね」

「ああ……けど言いたくないんなら別に構わねえぞ。マティエみたいになるのも怖いし」

クスッと笑ってくれた。和ませるのってほんと難しいな…


「ジールさんは虐待とか話してましたけど、私……奴隷だったんです」

「え……⁉︎」

「ここから遥か西の方にあるとても小さな国、セルクナに我々一族がいたんです。けどオコニドの侵略で……」

「国自体無くなっちまった、ってことか」

タージアは小さくうなづく。

「運良く私は生き延びることができたのですが、拾ってくれた方はいわゆる奴隷商人でした。けど私には優しくしてくれて、この眼鏡もその時に頂いたものなのです」

え、目が悪いとかじゃないのか……? じゃあ一体どうして。

おもむろに眼鏡を外す……俺は思わず彼女の瞳を見て声を上げてしまった。

宝石……それも深い緑色に輝いている。

「何があっても、この目だけは他人に見せちゃダメだって」

タージアが言うには、これはセルクナの民にしかない【真緑の瞳】なんだとか。しかしその希少な瞳が何故に人に狙われるか……それは一族が滅んでしまったために、彼女自身も知らないのだとか。

「わずかながら分かったことは、この瞳は【緑】を見分ける力を持っている……それだけです」

そっか、以前王子がこいつに話してたな。つまりは特殊な力があるってこと……か?


「そしていろんな場所に私は売られて……時には酷い目にも遭いました。だけど私は希望は捨てたくなかったんです。生きていればきっと……」

「それが、ルースとの出会いってわけか」

「ええ、デュノ様も王子同様、私を一目でセルクナと見抜き、助手として迎え入れてくれた……命の恩人です」

けど……と彼女は付け加えた。「あの方にはマティエさんという許嫁がいたことを知って、ちょっと妬いちゃいました。なのである日大げんかして、そのまま辞めてしまったんです」

嫉妬……か。タージアも少なからずルースのことが好きだったのか。


「私、まだ人の視線が怖くて、人間恐怖症なのですが……いつか克服したら、世界に散り散りとなったセルクナの同胞を探しに、旅に出たいのです!」

痛いくらい俺の腕の毛を掴みながら、タージアは力説した。

そっか、こいつにも旅立ちしたい理由があるんだな。

エッザールといい、ラザトといい、人は旅をしてみたい衝動ってもんがあるんだろう。


「なので……その、克服するお手伝いをしていただければ……」

「え、なんで俺に?」

「ラッシュさんの息子さんを、その……お借りできればと」


まあ、仕方ないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る