なにもない毎日なんて、退屈
翌日から、フィンの特訓を始めた。
「金はいいの?」
「初回はサービスだ。まずはお前の素質ってモンを見てみたいしな」
とは言ったものの、やっぱりラザトの息子だからか結構筋はいい。それに住み込みで教会にいるから、ここでもいろいろ下働きしているみたいだし。細っちい身体しているのに、スタミナとかあるしな。
それと……いや、ついに。と言っていいのかも知れないが、チビも加わりたいと言ってきた。
俺は今までこいつに俺を目標にしてもらいたくなかった……だから仕事のことも極力こいつの前じゃ話すようにしなかったし(無論他の連中にも)、朝夕の身体作りもチビが寝ているときに裏庭でやるようにしたしで。
幸いにも街の連中も俺には協力的だったのも助かったし。そう、この終戦で俺が傭兵と言われるより人殺しと言われるのが一番怖かったんだ。俺だけがそう言われるのは別に構わない。つーかそんなこと言われたって一発殴ってしまえば解決できたし。
チビが一緒に居るそばで、それを言われてしまうのが何よりも怖かったんだよな(と、トガリも同様に危惧していた)。
知らず知らずのうちに街の連中のいろんな手伝いをしていたからか……うん、ガンデ親方はそれも修業の一つだと言ってバシバシ積極的にやらせてたしな。俺がいなきゃこのマルゼリの街も成り立たねえと言ってくれる人までいたし。
……話がまたわき道にそれちまった。さてさて、チビにはどうやって言い訳しようか。
「こいつの名前はなんていうんだ?」
一緒に剣の素振りをしている側で、フィンがそう言った。
「ねえよ、チビはチビだ」
「マジかよ、それってひどくね?」
チビの名前……全然考えたことすらなかったな。ほかの奴らにもこいつの名前ってあえて聞かれたことすらなかったし。
「ちゃんと名前つけたほうがいいんじゃね?」
「だったらフィン、お前が名前つけてみるか?」
「なんで俺が」
実際のところ、俺のラッシュという名前だって戦場でつけられた二つ名が本物の名前として独り歩きしちまったものだしな。今さらきっちりと命名されたところで絶対に浸透はしないと思う。
フィンがチビに「チビってずっと呼ばれたくねえだろ」って言ってるんだが、チビはいつものマイペースで「そう?」って返す始末。
そう言われてしまうと……参ったな。また悩みが一つ増えちまったじゃねえか。
週に三回、午前中に学校に行って、昼メシ食ってから午後はフィンとチビに剣を教えて。
仕事がなくなってからというものダラけた毎日が多かったしな。これくらいがちょうどいいのかも知れない。
一方のラザトはといえば、親方になったとはいえ、相変わらずの飲んべえな毎日だった。
まあ時おりガンデ親方の書斎にこもったりはしているんだが、意図が全くもって不明だし。
でもそんな中……いや、それだけ経っちまったってことか。
ルース……いや、ネネルたちが帰ってくるって一報を聞いたのは。
でもそれは、俺の新たなるトラブルへの引き金にもつながっていたんだ。
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