秘密がいっぱい

ーあれから、一か月が過ぎたー


 結局例のドール騎士団長のバケモノ騒ぎは町の連中には知らされぬまま。どうも城内で緘口令が敷かれたとのことで……って、カンコウレイっていうのも初めて聞いた言葉なんだが、要は他の連中には絶対にしゃべるなって命令らしい。俺はそれをルースから言われたんだけどな。


「分かりますよね。城内にあんな怪物が出てきてしまった以上、とにかく我々も隠しておきたいってことが……まあこれもいつまで隠し通せるか分からないですけど」


 よく分からねえけど。ルースが一生懸命なのはわかった。

 それに、ドールによって騎士団が壊滅状態にまで陥ったっていうのも、リオネングにとってはかなりのダメージだしな。

 つまりは、この国は中がガタガタ。いま外から攻められでもしたら、あっという間に壊滅だってこと……だ。

 だからか知らないが、隣にあるマシューネ国に一時的に補強をお願いするとのことらしく、急遽ここの王子と姫さんがそこのところをお願いしにに行くって話が耳に入った。


「ああ、兄貴はシェルニで、妹はエセリアって名前だったかな」ってラザトは話してたな。

 なんでもエセリア姫っていうのはとにかく病弱だったそうで、まだ赤ちゃんの時から各国から手に入れたいろんな薬を試しつつ、これまでどうにか生きながらえてきたそうだ。

 しかしそれも甲斐なく、半年前についに亡くなった……と思われたのだが、ルースが作った薬が功を奏したのか、突然生き返って、以来おてんば姫と呼ばれるくらい元気になったとかで……うん。城内でルースが「デュノ様」って言われてたのがなんか分かった気がする。


 あいつ俺らと違って名字があるんだ。しかも長ったらしい「ルース・ブラン=デュノ」っていうのがフルネーム。なんでこんな長いんだか。

 このまえ一度そのことをあいつに聞いてみたんだが「いつか話しますよ」ってさらっとかわされた。まあそれも別にいいことだ。俺にとってはな。

 ルースはルースだ、そう、それ以上でもそれ以下でもないかけがえのない仲間であり戦友だ。俺の数少ない……って、あいつと別に戦争で肩を並べたことなんてないけどな。

長くなっちまったが、そんなことで王子と姫様をのっけた馬車がここ、俺の宿屋の前を通るんだとか。

 別に俺の店によるんじゃない。こんな世の中だ、今まで病弱だった姫様が俺たちの前に顔を見せてくれるってことで、俺たちに活気と元気を与えるんだそうだ。

ふん、姫さん結構人気者だな。


 けど……あれ? あの時中庭で会ったあいつ。ネネルって自分で言ってなかったか? しかも秘密だよって。


 なんなんだ……エセリアって名前が本当なのか、それともネネル?


 ……俺が城に行ってからっていうものの、よくわからないこと、秘密にしろってことがいっぱい増えてきた。


 頭いてぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る