第236話、普段とは違う勝負

 一試合目を無事済ませ、また翌日にも試合がある。

 一日一試合。私としては緩い感覚だ。

 そうして二日目の試合に臨み――――。


『勝者、グロリア!』


 審判の勝敗の声と共に、大きかった歓声がさらに大きくなる。

 二試合目も満足して貰えたらしい。どうも私の戦い方が良いそうだ。

 真正面から一歩も引かず、全ての攻撃を受け切って、一撃を打ち入れる。


 その姿がどうも男性の観客には格好良く見えるらしい。

 女性の観客も応援してくれるけど、開始前と終わった後の方が声が大きい気がする。

 試合相手には勿論、観客にもペコリと頭を下げると、高い声が良く響く。


『ふむ、男女問わず人気だな。まあ当然だな』

「そ、そう、なん、でしょうか」

『当然だな。ウチのグロリアは可愛いからな。うむ』


 確かに女性からか可愛いという声援が多いし、男性からも多いけれど。

 でも闘技場に可愛さ要るだろうか。でもそういえば、ガンさんも可愛いと言われていたっけ。

 そんな風に悩みながらテクテクと舞台から降り、舞台袖に引っ込んでリズさんに迎えられる。

 今日も彼女の腕の仲は暖かい。自分の頬が溶ける様な気がする。


「なあリーディッド。グロリアの戦い方は何時もの事だけどさ、この闘技場の連中って、闘技だからあの戦い方なのか?」

「だと思いますよ。正面から戦って勝つ。それが闘技場の王道のようですから」

「ガンは完全に邪道組だねー」

「へーへー。キャスに言われなくても自覚しましたよー」


 今日はガンさんも私の試合を見ていて、思う所があるのかうーんと唸っている。

 確かに言われてみると彼の言う通り、昨日も今日も素直に真正面からだった。

 ガンさんの様に視界から突然消えて、死角から攻撃してきた事は無い。


 だとしてもガンさんの戦い方は『勝つ』という一点を目指した戦い方だ。

 戦いにおいて一番大事な事で、なら彼の戦い方こそが王道な気がする。

 そう思い口を開きかけた所で、王女様の声が先に響く。


「ガン様はガン様の良さがございます。それに何よりも・・・観客はそこまで愚かではありませんよ。派手な試合を見たいのは確かですが、ガン様の強さを貶める者は少ないでしょう」

「だと良いんですけどね」

「それに凡百の者達が否定をしても、私は貴方の事を肯定致します。素敵ですよ、ガン様」

「・・・あざます」


 きゅっと彼の腕に抱き付いて見上げる王女様と、照れた顔をそむけるガンさん。

 何時も通り仲が良さそうだ。ただリーディッドさんだけは白けた顔だけど。

 キャスさんは何時もニマニマしてみてるんだけどなぁ。


「流石にこう何度も見せられるといい加減飽きましたね。そろそろ喧嘩して落ち込むガンとか、そういう変わった光景を見せて頂けませんか」

「何で俺が落ち込む前提なの!?」

「いや、絶対貴方が落ち込む展開しかないでしょう。逆があると?」

「・・・無い、気が、する」


 そうかな。王女様私には結構落ち込んだり、不安そうな表情見せる事あるんだけど。

 ただガンさんの前では大体ニコニコしているのは、きっと彼の傍が好きだからだと思う。

 彼はそんな王女様の様子に小さな溜息を吐くけど、目が優しいのも何時もの事だ。


 まあガンさんは普段から優しいから、誰にでも優しい目を向けてる気がするけど。

 リーディッドさんとキャスさんにぐらいじゃないかな。普段から睨んだりするのって。

 王女様は「偶にはあの視線を私にも向けて下さらないかしら」とか言ってた。良く解らない。


 次の試合はガンさんの予定なので、そのまま試合が始まるまでのんびり待つ。

 ただ今回は試合の順番が変わっていて、彼の試合で今日は最後だ。

 お爺さんが「上手く頼むぜ」と言っていたからか、ガンさんは少し緊張している。


「さて、んじゃまあ、今回は気を付けて試合しますかね・・・はぁ」

「あ、ガン様、少し屈んで下さりませんか?」

「・・・そう何度も引っかかりませんよ、流石の俺でも」

「あら残念。ではこうしましょう」


 王女様はガンさんの腕を引きつつ、足を軽くかけた。

 完全に油断していたガンさんは体制を崩し、けれど王女様がしっかり受け止める。

 彼女は剣の鍛錬や体術の鍛錬もしているから、ガンさんを受け止めるぐらいはなんて事ない。

 そしてそのまま頬に唇を付けて、顔を少し放すとニヤッと笑った。


「お守り代わりと思って下さいな」

「・・・絶対王族がやって良い事じゃないと思うんですけどね」

「あら、なら好都合です。私は王族の席から外れたいのですから」

「・・・そうすか」

『力技だな。まあ効果はあったようだが。ガンは単純だな』


 そうして試合はどうなったかといえば、結果はガンさんの勝利で終わった。

 相手の攻撃を一度も掠らせる事無く躱し続け、一撃で相手の意識を奪う形で。


「流石に警戒されてたから、初手不意打ちは無理だったが・・・試合としてはそれで良かったかもな。流石にこれで文句言われたら、もう俺にはどうしようもねえや」


 試合が終わった後の彼はそう言っていた。私もそう思う。

 ガンさんは基本的に正面から打ち合う人じゃないし。

 そんな感じで数日間試合を続け、お互いに全勝で試合を進めて行く。

 そしてとうとう最後の試合がやって来た。



 ガンさんとの試合が。何時もの手合わせじゃない、試合の勝負の日が、来た。



『ガンとの試合での戦いか・・・さて、ルール内での勝利となると、グロリアに不利かもな』

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