第201話、あの時の

 魔獣領に帰ってきて翌日。朝起きたらいっぱい食べて、それから庭で鍛錬へ。

 勿論兵士さん達に付き合って貰って、久々な一緒の鍛練で張り切り過ぎてしまった。

 兵士さんは昼前にヘトヘトになってしまい、予定外の状態になって物凄く申し訳ない。


「お気になさらず。軟弱な者達が悪いだけですよ、グロリア様」


 私に手加減を教えてくれた兵士さんは、そんな風に言ってくれたけれど。

 今更な話だけれど、彼は隊長さんなせいなのか、時々皆に厳しい。

 それと今日は兵士さんがいっぱい居たので、彼の事は隊長さんと呼んでいる。


 皆兵士さんだから、誰を呼んでいるか解らないからとの事だ。

 今後も解り易い様に隊長さんと呼ぶ事にしよう。

 そんなこんなで鍛錬が終わったらお昼を貰い、その後は傭兵ギルドへ。


「グロリアちゃん、いらっしゃい。もー、昨日来てくれなかったから寂しかったんですよー?」

「ご、ごめん、なさい、フランさん」

「ふふっ、良いでしょう。おかえり」

「はい、ただいま、です」


 フランさんがカウンターから出て来て、私をギューッと抱きしめる。

 嬉しくて私も抱きしめ返すと、直ぐに職員のお姉さん達も寄って来た。

 そうして暫く皆に揉みくちゃにされてから、ギルマスさんへも挨拶に。

 ただ後ろでフランさんが、ボサボサになった私の髪を梳いている。


「ギルマスさん、お仕事に、来ました」

「おう、待ってたぜ」


 ニッと歯を見せて笑うギルマスさんは、私の頭に手を伸ばしてポンと叩く。

 するとフランさんに睨まれたらしく、苦笑しながら手を放した。

 私は別にボサボサでも良いんだけど、フランさん的には許せないらしい。


「今日は一人なのか? リーディド達は?」

「リーディッドさんは、何かやる事が、あるらしい、です。キャスさんはお休み、です。ガンさんも今日は、のんびりしたい、って言って、ました」

「はー、そんな中一人仕事に来たのか。働きもんだな、全く」

「頑張り、ます」


 ふんすと気合を入れる私に、ギルマスさんは笑顔で褒めてくれた。

 今日は皆が居ないけど、前だって何時も一緒だった訳じゃない。

 一人でも出来る仕事を貰って、今日もいっぱい頑張ろう。


「んー、今日はグロリアちゃん一人かぁ・・・んじゃグロリアちゃん、こっち来て」

「はい、わかり、ました」


 私の髪を梳き終わったフランさんに連れられ、カウンターへとトテトテ向かう。

 その間に声をかけられた傭兵さん達にも挨拶して、フランさんの前に座った。

 彼女は私が出来る仕事を選んでくれて、手続きをすぐに終わらせる。


「じゃあグロリアちゃん、無理しない程度に頑張ってね。帰って来たらお茶入れてあげるねー」

「はい。楽しみに、しています、ありがとう、ございます」


 フランさんにお礼を言って、お姉さん達にも手を振ってギルドを出た。


「ガライド、今日はやけに、静かですね」

『む、ああ、久々の・・・という程でもないが、帰還の挨拶だからな。余り邪魔してもどうかと思って黙っていた。今のグロリアなら、私が教えずとも大丈夫だろう?』

「そう、でしょうか。不安なので、まだ色々、教えて欲しい、です」

『ふふっ、そうか。それは私も張り切るとしよう』

「はい、お願い、します」


 ガライドは気を使ってくれたんだろうけど、もう彼が傍に居るのは私にとって当然だ。

 静かな方が少し気になる。というかちょっと不安になる。

 少し騒がしいぐらいが、多分私には丁度良いのかもしれない。

 自分が思った以上に寂しがりなのも、最近ちょっと自覚しているし。


「じゃあ、行きます!」

『ああ、行こうか』


 フランさんに貰った仕事は、殆どが力仕事ばっかりだ。

 余り頭を使う事のない仕事ばかりで、私にとってはとても助かる。

 細かい仕事はまだ少し自信が無い。でも何時かはちゃんとやらないと。


 そう思いながら与えられた仕事をこなし、あっという間に時間が過ぎて行く。

 この感覚も久しぶりだ。とても時間の経過が早い。きっと楽しいからだろう。


 城に居る間は一日一日がやけに長かった。

 その点でも、私はやっぱり王都生活に向かないんだろう。

 私の生活する場所は、私の帰る場所はやっぱり魔獣領なんだな。


「いやー、グロリアちゃん。お疲れー。助かったよ」

「ちゃんと出来たなら、良かった、です」

「ははっ、ほんと良い子だねー」


 そして本日最後の仕事を終わらせると、もう日が傾き始めていた。

 きっとこのぐらいに終わる様にと、フランさんが調整して仕事を選んでくれたんだろう。

 もう仕事完了のサインも貰っているし、早くギルドに戻ろう。


「日が暮れる前に、帰りましょう」

『そうだな。でなければまたリズが門前でずっと待っているぞ』

「それは、駄目、です・・・!」


 少しだけ速度を上げて、でも人にぶつからない様に気を付けて、ギルドへと走り抜ける。

 そして傭兵ギルドの出入り口をくぐると「あっ!」という声が響く。

 何だろうかと思わず顔を向けると、見覚えの在る少年が私を見つめていた。


 彼は、ええと、そうだ。何時だったか、ガライド無しで試合をした少年だ。

 少し怪しげだった記憶を呼び起こすと、彼は真剣な表情になって近付いて来た。

 なんだろう。何だかやけに、体に力が入っている、様な。


『・・・グロリアにのされたクソガキか。久しぶりに見るな。まさかまた絡んでくる気じゃないだろうな。流石に二度目は容赦する気もおきんぞ』


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