第169話、魔道具の鍛錬

 取り敢えずあんまり難しく考えるのは止めよう。そもそも私余り頭が良くないし。

 リーディッドさんに色々教えて貰っているけど、全ては覚えて切れていない。

 取り敢えず計算は覚えないと困るからと、それだけはしっかり覚えたけれど。


 うん、覚えた、つもり、だけど。偶に、間違える、けど。


 まあ、えっと、それは措いておいて、キャスさんの言う事も実際もっともだ。

 なら私が一番やるべき事は、考えるべきは闘技場の事だろう。

 私が私として生きて行く為に、この国で私を認めて貰う為に戦うと決めた。


 ただルールに従って勝たなきゃいけないから、その辺りの訓練はもっとやらないと。

 ガンさんに協力して貰って、もっと紅い力を上手く使える様にならないといけない。

 それにガライドから色々と聞いた、魔道具の『機能』も使える様にならないと。


「よし・・・! あ、あの、キャスさん、降ろして、下さい」

「ん、どーぞ」

「ありがとう、ございます。えと、リズさん、着替えて、良いですか?」

「お着替えですか? 構いませんが・・・」


 私を抱きしめたままのキャスさんにお願いし、床へと降ろして貰う。

 そしてリズさんに着替えを頼み、了承を得たのでドレスを脱いだ。

 部屋に戻った後また着替えさせられたので、このままでは鍛錬に入れない。

 途中でリズさんが手伝ってくれて、何時もの紅いドレス姿へと着替える。


「・・・鍛練場に行かれるのですか?」


 リズさんが着替えを手伝いながら訊ね、けれど私は頷きかけた所で固まった。

 今からやるのは魔道具の鍛錬だ。鍛練場でやれば間違いなく色々と壊す。

 勿論壊さない訓練をした方が良いのだろうけど、今はまだそんな自信がない。


「出来れば、外に、行きたいです。なるべく、人の居ない、所に」

「・・・魔道具の鍛錬をされる、という事ですね」

「はい。そう、です」


 普段私は街から離れた所で魔道具の鍛錬をしているし、その事は話している。

 それは闘う為の訓練というよりも、ガライドを使いこなす為の鍛錬。

 万が一に失敗して周りに被害を出さない様に、という考えも多少ある。


 だから出来れば人の居ない所が良い。出来れば魔獣が居るともっと良い。

 魔獣相手に試す事が出来るし、減ったお腹も満たす事が出来る。

 一応ガライドが作ってくれた薬が有るけど、出来れば普段は頼りたくない。


 だってあれは、多分ガライドが心配するから。使うのはどうしてもの時だけにしよう。


「グロリアお嬢様、それは少々難しいと言わざるを得ません」

「難しい、ですか?」

「お嬢様の鍛錬は、その、知っていれば驚きませんが、知らなければ調査団が組まれてもおかしくない事が、幾つかありますので。王都周辺ではどう足掻いても人目につき、騒ぎになるかと」


 リズさんは少々言い難そうに私に告げ、そうなのかと思いガライドに目を落とす。


『あー・・・まあ、そうかもしれんな。強く光る紅い何か、空に昇る紅い光、遠くから響く轟音と振動。騒ぎになってもおかしくは無い。都会で人の多い王都近辺では難しいか』

「そう、ですか・・・困りました、ね」


 鍛練はしたいけれど、騒ぎにして人に迷惑はかけたくない。

 つまり鍛練は出来ないという事で、このやる気はどうしたら良いのだろう。

 困ったな。完全にやる気満々で着替えたのに。リズさんに余計な事をさせてしまった。


「メルちゃんに頼んでみれば? あの王子様なら丁度良い所知ってそうだし、連れてってくれるんじゃないかなー、それにもし何かしら騒ぎになったとしても、彼なら助けてくれるでしょ」

『・・・認めたくないが、キャスの案が一番よさそうだな』


 メルさんか。でも良いのだろうか。昨日も色々と付き合って貰ったのに。

 それに昨日は休みだと聞いたけれど、今日は休みではなかったと思う。

 仕事があるのにそんな事を頼むのは迷惑じゃないだろうか。


「グロリアちゃん、多分メルちゃんは頼んだら喜ぶよー」

『だろうな』


 すると私の心を読んだかの様な言葉をキャスさんから投げられた。

 本当だろうか。流石の優しいメルさんだって、仕事中に頼めば困る気がする。

 そう思ったけれどキャスさんに「んじゃいこっか!」と言われて部屋を出た。


 リズさんは当然の様に付いて来ていて、その際他の使用人に伝言を残している。

 多分あとでリーディッドさんに伝えるんだろう。そして三人で第三騎士団の所へ。


『あ奴は鍛練場に居ない様だぞ。どうも地竜の厩舎の方に向かっているな』


 三人で歩を進めようとしたときに、ガライドがメルさんの居場所を告げて来た。

 おそらく『マップ』で確認したんだろう。ガライドはマップの範囲なら誰か解るらしいし。

 私も表示を変えて貰えば解るのだけど、そうなると魔獣が捜し難かったから戻して貰っている。


「ん、どしたのグロリアちゃん、立ち止まって。やっぱり止めるの?」

「あ、いえ、メルさんが、鍛練場に、居ないみたい、なので」

「もしかしてガライドが教えてくれた感じ?」

「はい。厩舎に、居る、らしいです」

「厩舎かー。じゃあどっかに出かけるのかもねー。そうなると流石にお願いは無理そうかなぁ。断られるかもしれないけど、レヴァちゃんに頼んでみる?」


 レヴァレスさんも王子様だから、同じ様に頼めるって事なのかな。

 そういえば彼は一体普段はどう過ごしているんだろう。想像が出来ない。


「そういうのは目線を向けながら言う事じゃないと思うけどね」

「あははー。見えたからわざと言ってみたー」


 ただそこで話題のレヴァレスさんが顔を出し、後ろから声をかけて来た。

 誰かが近付いているのは解っていたけど彼だったのか。


「段々君という人間を掴みつつあるよ。君基本的に腹の探り合いを意図的に放棄してるね?」

「いやー、だって面倒じゃない? それに私あんまり頭良くないしさー」

「頭の悪い人間が王子を上手く使おうなんて思わないけどね」

「頭が悪いから思うんじゃない?」

「・・・また否定も肯定もし難い事を」

「あははー。そこで『そうですね』って言わない辺り、リーディッドとは違うねー」


 確かにリーディッドさんなら言いそうだと思ったけど、思わずすっと目をそらしてしまった。


「それで、何の話かな。殆ど話は聞こえてなかったから、ちゃんと説明をして貰えないか。力になれる事であれば手を貸そう」

「あ、ほんと? ありがとー。えっとねー・・・」


 レヴァレスさんの言葉に甘え、キャスさんと一緒に事情を説明する。

 すると彼は「なら丁度良い」と言って私に目を向けた。


「要は街を離れて鍛練出来れば良いのだろう? なら今すぐ兄の元へ行くと良い。君の願いは確実に叶うだろう。とはいえ余計な者も付いて来るが・・・まあそれは気しなければ良いだろう」

「メルさんの、所に、ですか?」

「ああ。今なら急げばまだ間に合う。兄は今から魔獣退治に向かう所だ。連日出て来るのは珍しいんだけどね。まあ無い事ではないけれど。君なら、付いて行って何の問題も無いだろう?」


 魔獣退治。メルさんが。成程、確かに、私の願いは叶いそうだ。


『・・・さて、あの男は、戦うグロリアを見て何を想うか』

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